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かき氷のイチゴは思い出の味

かき氷のイチゴの話で思い出した。
昔、私がまだ小学生だった頃、ケチンボの祖母にどやされて呑気な祖父は昔大工だった杵柄を活かし、しぶしぶシルバー人材センターに登録させられ働かされていた。孫を何とか大学に入れて一人前に育てなければと意気込んでいた祖母だったから、自分のおかずを毎晩メザシ一本、タラコひと腹で我慢して、たまに叔母たちが外食に連れて行っても水しか飲まず、「何か注文しなよ」と言われると「それなら金を貰った方がいい」とのたまって座を白けさせたりする相当な倹約家だったが、全ては可愛い、そして母親に置いて行かれた可哀想な孫である私のためだった。今思えば、こんなふうに跡取りを放棄して、52歳で離婚するようなバカ娘になってしまって、ほんとにすみません、だ。
祖父は鼠年で庭を朝から晩までチョロチョロしては家とアパートの其処此処を直してみたり、さほど必要でもないものを作ったりしてたから、「孫のために遊んでるなら働け」と尻を叩かれたんだろう。祖父は毎朝、赤ん坊の頭ほどの巨大な、海苔をぐるぐる巻きにした梅の握り飯をひとつ祖母に作って貰って仕事に出かけた。子ども心におかずがないのが不憫で仕方がなかった。
あの日は現場が家から近所で、小学校から帰って友達と遊んで夕方ばいばいしてから、祖父が働いてる現場を覗きに行ったのだった。現場の先の郵便ポストを曲がった先に駄菓子屋が二軒あって、最初の駄菓子屋の方が店の造りが小綺麗だが、店のおばあさんが子どもの私にも分かる祖母や母の悪口を言うのであまり好きじゃなかった。奥の駄菓子屋は駄菓子屋らしく店の中は狭く薄暗く品数が多いんだが、ガラス棚に並んだ食べ物はみな不潔そうな気がした。おばあさんが「いくら持ってんの?まだ買えるじゃん」と子どもにせっつくのが強欲そうで嫌だった。そのくせ隙が多く、イタズラ坊主らによく万引きされていた。アイスぐらいなら奥の駄菓子屋まで行かずとも最初の店でよく買った。あの日もその店で赤城しぐれのイチゴのカップのかき氷を二つ買ったのだった。ひとつは私の、もうひとつは働いてる祖父のために買った。大人に囲まれて育った私は子ども心にこうすれば大人はきっと喜ぶという勘所が分かっていて、あの日も祖母に頼んで小銭を貰い、仕事終わりを見計らうように祖父にかき氷を差し入れたのだ。
二人で西陽の当たった材木に腰掛けて耳をつんざく蟬しぐれに囲まれて、木さじでシャリシャリやりながらカップのかき氷を無言で食べた。良いことをしている自分、いい孫を演じている自分、祖父と二人きりでいる自分がものすごく照れくさかった。思えば、あの頃からかき氷はイチゴ、それも赤城しぐれのカップのやつと動かし難く決まってしまった。人の味覚は思い出が作っていく。「あん時のアレ」をたくさん持ってる人生は幸福だ。夏は祖父母がともに亡くなった季節。今年の墓参りには言いにくい報告もせにゃならんなぁ。あーあ。



by zuzumiya | 2018-07-22 19:13 | 日々のいろいろ | Comments(0)
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