夫婦の終わらせ方〜『おめでたい女』を読んで〜

夏石鈴子改め鈴木マキコさんの離婚私小説『おめでたい女』読了しました。
帯であの佐藤愛子さんが1度読んでから再読したとか、タイトルの「おめでたい女」はいけないとか書いてありましたが、やっぱり再読したくなりました。それにタイトルですが、私は「おめでたい女」で断然いいと思います。なぜならほんとうにおめでたいからです。生活費は入れない、家賃は払わない、息子の学資に手をだし、毎日20万ずつ引き出して飲み食いに使う、挙げ句の果てに「金は出した方が負け」と開き直り謝らない、離婚したくてもハンコ押さない、養育費の調停にも来ない、そんな極悪人の元旦那と何とか別れて、この辺までは被害者として怒りや悔しさをバネに筆が進んでいたようですが、そのうち元旦那が病に倒れてからは途端に憐れみ、後悔の感が押し寄せて、ものすごく酷いことをされてきたあの怒りはヒョイと棚上げされて、どうしよう、可哀想にといつの間にか夫婦としての情が蘇り溢れてくる。25年連れ添ったといいいますが、夫婦とは相手が病に倒れたり死んでしまうとなったらこんな風に180度心情がすり変わってしまうものなのかと驚きました。あれだけのお金を返して貰えずにまんまと死なれてしまったその後になんと墓まで買ってあげちゃうんですから、これはもう「おめでたい女」で私はいいと思うんです。
マキコさんの場合は怒りながらも呆れながらも、仕事人としての元旦那を(息子もそうですが)ことごとく尊敬していました。はい、作品名をあげれば誰もが知ってるすごい映画人です。仕事で成功するならば、とその一点で生活費を入れないことも家賃を払わないことも、金策に困って自分の母親にも借金することもぜんぶ、「映画が当たれ!」「当たればすごいことになるから」の願いで何とか目を瞑ってきたんです。息子さんなんか離婚の際に自分の学費にまで手をつけたと分かっても、父親に付いて行ってしまうんですから。そういう意味ではマキコさんはどんなに忙しくても悲惨でも子供の教育には成功したと言えます。というか、マキコさん本人が、人間としてでなくあくまで仕事人としてですが、本心からすこぶる尊敬していたからでしょう、そういう母親だったから伝わるんです。普通は母を苦しめて家族をバラバラにした「最低な極悪人」として子供の心に残りますから。元旦那にあそこまでされても「死ぬ」となったら、怒りと悔しさで封じ込められてた人のいい面や思い出がふわりふわりと浮かんでくるものなんですかね。夫婦の歴史を恨みと憎しみで終わらせなかった、という点でも「おめでたい」でいいんだと思います。いろいろあったけど、確かに私はあなたと一緒に生きてきましたと、ある種のハッピーエンドが漂う感じがね。
はてさて、自分はというとマキコさん家みたいな悪いことはされていませんが、離婚したいうことはそれなりに傷ついているわけです。怒りや悔しさはおおよそ通り過ぎましたが、後悔もありませんが、残念な思いはあります。一緒に歩く老夫婦なんかを見ると「ああなれなかったなぁ」と。それと今後は誰も好きになれないような、恋愛感情そのものが失せてしまった気がしています。元旦那が病に倒れたら、と想像するとマキコさんのように「息子を助けるために」私も病院に出向くのでしょうか。マキコさんの場合は付いて行った息子さんがまだ高校生だったことは大きいでしょうが、マキコさん自身「会いに行かねば」という気が心の本音であった気がします。彼のためでも、息子のためでもなく、マキコさん自身の人生のケジメのために。私の家の場合は息子も娘も成人していますので、彼らに任せておくと思います。今現在の気持ちですが、どう心が揺れて変わっていくかはその時になってみなくてはわかりません。
離婚が夫婦の終わりじゃない、やっぱり所詮「紙っきれ」なんでしょうか。相手の死があってようやく今生での夫婦が終わる。でも、どうもマキコさんの本の終わり方にしても詩人の茨木のり子さんの亡き夫への詩集を読んだ時も、そこからまたアチラとコチラで繋がった新しい絆の夫婦ができあがる気がして、「夫婦の終わりって何だろう」といろいろ考えさせられる本でした。


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by zuzumiya | 2018-03-21 09:08 | わたしのお気に入り | Trackback | Comments(0)
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