2016年 11月 28日 ( 1 )

懐かしい「家族の時間」

昔はiBookでブログの文章を書いていた。あいにく故障してしまい、仕事のからみでWindowsに切り替えた。以前のブログのコーナーに「家族の時間」というのがあって、文字通り、家族の何気ない日常の話を書き留めていたが、文章の出来とは関係なく、自分が好きな話がいくつかあって、最近になってどうしてもまた読んでみたくなった。内容はだいたい覚えているが、同じ文章は二度とは書けない。幸いバックアップしたディスクから何とか読み返すことができた。当時のことが思い出されてひどく懐かしいのと同時に、変わってしまった自分自身に、夫婦や家族の有様に、ちょっぴり心を痛めてもいる。このブログでもいくつか紹介させてほしい。

金色の塵

いつもの習慣で休日だというのに、7時には目が覚める。

黄色いカーテンが明るいから今日もきっと冬晴れのいい天気なんだろう。音をたてないようにそうっとカーテンを開ける。ここで音をたてると、猫も子どもも起きてしまう。本棚に手を伸ばして読みかけの1冊をとる。ページを開けば、白がまぶしい。頭のてっぺんに9階の強烈な朝日をうけながら、そろりそろりと読み出す。1行、2行、ああ、至福の時。

「あっ」

どうしてだか、ほんとにどうしてだかわからないけれど、うまくやったつもりなのに隣の部屋からごそっと音がする。寝返りであってほしいなと願いつつ、それでも本を伏せ息をひそめてじっと足元を見つめる。

やがて願いむなしく戸が開いて、やまんばのような娘がニッと笑って顔を出す。ここで、いつものようにすかさず本を閉じ、「来たのか~」とハイハイしてくる赤ん坊を喜んで迎え入れてやるような甘ったるい言葉をかけてやらないと娘はたちまちふて腐れる。朝からそれでは困る。

「来まちたよ~、ママ~」

もうすぐ5年生になるというのに、この朝の儀式の時の娘は赤ちゃん言葉だ。布団の端を持ち上げて早速入ってくる。娘の冷たい足が一瞬すねに当たってヒヤリとする。実はここからが面倒くさい。

「待って、待ってよ、栞ぐらいはさませて」

せっかく読んでいた本をため息まじりにベッドから落とす。それすら待てないのか、布団のなかで今か今かと子犬のように娘がはねている。

「よちよちよち、めるちゃん、おはよう、よちよちね~」

抱きしめると、娘の体ぜんぶから嬉々とした興奮がくうーっと立ち上がる。そういう気のようなものが確かに毎回見えるのだ。

「どーどーどーどー、ああ、よしよし」

もしゃもしゃの髪が鼻先に、熱い吐息が小さく首筋にあたってくすぐったい。

「ママ~、来たよ、めるが来たんだお~」

「わかってるよ、わかってるから、足をばたつかせないで、布団が落ちちゃうよ」

間近で見る娘の額は素直に広く、眉毛は丁寧に1本ずつちゃんと生えていて、瞳は、瞳といったらもう朝の光を吸ってこんなにきれいにきらめいている。だからつい、

「めるちゃんって、かわいいね」

とつぶやいてしまう。しかし、それは娘を余計に興奮させ、ばたつかせる言葉なのだ。

「かあ~いい? めるってそんなにかあ~いい?」

「うん、かわいいよ」と笑って頷くと、

「ああ~ん、ママ、しゅき、しゅき~」

またもや体を弾ませ、ぎゅぎゅっとしがみついてくる。寝起きだっていうのにこれじゃ体がいくつあっても足りない。

「でもね、ママもかあ~いいんだお、すご~く」

「えー。じゃ、ママはどこがかあ~いいのかな?」

「……歯肉!」

「歯肉? こんにゃろめ、歯肉ってなんだよ、こいつ~、このこのこのーっ」

調子づいてギャグをとばした娘の、いつまでたっても細っこい脇腹をお約束のとおりにめいっぱいくすぐってやる。

こんなわかりきっている遊びのどこがいいのだか知らないが、足をばたつかせ、身をよじって、娘はきゃあきゃあ喜ぶ。

布団はずり落ち、毛布はもかもかと波打って、娘のやわらかい髪の向こうに、朝日を浴びて金色の塵が無数に舞っている。

もし私が死んで、天国の門番に「覚えているしあわせの光景をひとつ言ってごらん。そしたら入れてあげる」と言われたら、迷わずこれを答えるだろう。

ふと、そんなことを思いながらくすぐりの手をたこのように動かしている。



今思えば、私はひどい母親だった。子供と一緒に寝ると夜中に子供の寝相のことが気になって何度も起きるので睡眠不足になって仕事に支障がでるからと私は隣の部屋に一人で寝ていたのだ。子供は夫と寝ていた。母が恋しかった娘は目覚めるとすぐさま私の部屋にやってきたのだった。そして、私の布団の中でめいっぱいじゃれついた。その時、朝日の中に舞い上がって金色に光る塵がすごくきれいに見えた。そう、スノーボールの雪のきらめきのように、幸せが光って二人に降ってきたのがわかった。



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by zuzumiya | 2016-11-28 22:32 | わたしのお気に入り | Trackback | Comments(0)


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