暮らしのまなざし

2016年 09月 05日 ( 1 )




老人バナナ

夫は毎朝、バナナを1本食べる。長年、頑固な便秘症なのである。病気に男も女もないものだが、男が便秘というとなんだかすごく女々しく情けなく感じる。男のくせにと思ってしまう。男をけなす言葉に「ケツの穴の小さい男」というのがあるが、ケツの穴がでかいことがなんでそんなにエライのかわからない。動物においてはうんこがでかいと体もでかいからであろうか。男の便秘にはそういった事情から、小さいうんこ以上にうんこすら出ない男なんて、という蔑みが根底にあるのであろうか。
バナナは便通に非常にいいらしい。なので、我が家にはバナナがかかさず買ってある。夫は“バナナスタンド”なるものまで買って、大事にバナナを吊るして保存している。が、バナナというのはなんでああもすぐに熟れてしまうんだろう。私はかたくてまだ青みがかっている若いバナナの方が好きだ。そういうのを選んで買ってくるのだが、3日もすると皮に黒い細かい斑点が出てくる。「あ、出てきたな」と確認した翌日には細かい斑点はわっと増え、バナナの全身に広がっている。ここらですぐに食べ切ればいいが1日1本なのでそうはいかない。で、もう1日経ってしまうと、細かい斑点の他に更に大きな黒々とした斑点が出てくる。我が家ではこれを「老人性色素斑」と呼んでいる。そう、シミである。見事に全身を黒々としたシミに覆われたバナナはもう老人の様相をしている。シミだけじゃない、なんとなく皮のツヤもハリもなくなって全体的にしなしなとして、熟れすぎた匂いもきつい。ちょっとした振動でバナナスタンドからずるりと皮からむけてテーブルに落ちてしまう。まさに老人バナナである。夫は慌ててラップにくるんで冷蔵庫に入れるが、私は絶対食べずに放っておくので、そうなると今度は斑点は消失して、ただただ全体が茶色く変色していかにもヤバそうになってくる。もはや死相である。夫もこのへんから諦めが入ってきて、ある日突然、「もういいや」とゴミ箱に捨ててしまうのである。
私の祖父は「果物はなんでも腐る一歩手前がうまいんだ」と豪語し、マンゴーでも桃でも柿でもメロンでも冷蔵庫にも入れず常温でじわじわ熟らせては指でつついていたが、子供心になんだかそれがすごくみみっちくて、いやらしく思えてならなかった。爺ちゃんはバナナもソバカスどころじゃなく老人性色素斑がめいっぱい浮き出たやつを喜んでモサモサと食っていた。そういうのが影響してるのか、私はミカンでもきっぱりと青い早生ミカンが好きだ。きっぱりと。
以前の職場で、弁当派の同僚がデザートとしてバナナを持ってきたことがあった。そのバナナが見事に老人性色素斑だらけで、パッと見ほぼ茶色であった。新婚の彼女は「お義母さんがお腹が空くから持って行けって」と恥ずかしがる風もなく、茶色いバナナを堂々と剥いてぱくぱく食べていた。私は「お義母さんに可愛がられてよかったねぇ」と言いつつも「そんなバナナをよく持ってきたな。人前に晒す神経がわからない」と心では呆れていた。いい人なんだが、バナナの一件で私は精神的に距離を置くようになってしまった。
この頃はスーパーでバナナを手にするたび虚ろな気分になる。どんなにかたく青いバナナを選んでもすぐに老いぼれる。特にこの夏の気候じゃ、置こうが吊るそうがあっという間である。私も今年の夏の熱さにはずいぶんとやられた。「老人性色素斑」だの「老人バナナ」だのと笑ってきたが、毎朝、夫がひとり食卓でバナナの皮を剥いている時、うんこのことよりバナナに自らの老いを重ねてぼんやりする日もあるんじゃないかと、思ったりする。
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by zuzumiya | 2016-09-05 22:42 | 日々のいろいろ | Trackback | Comments(2)

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