暮らしのまなざし

家族写真

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子どもたちが幼かった頃、外国映画に見る暖炉の上のように家族写真を小さなフレームに入れて棚にいくつも飾っていたことがある。引越しに引越しを重ねているうち、子どもたちも家族写真の甘ったるさに恥ずかしさを覚えるほどに成長し、主婦の私も並べたフレームの掃除の面倒さもあって、いつの頃か飾ることはやめてしまった。その後、家族写真の入ったフレームはアルバムやその他の撮りためた写真と一緒にダンボールに入れられ、どの家に引っ越しても天袋の奥にしまわれた。
夫が別居する際、その中から家族の思い出として画用紙ほどの大きさの一枚の額を持って行った。そこには大小の丸や四角の切り抜きがあって、そのどれにも幼い息子と娘、あるいは肩寄せ合って笑う家族四人が収まっている。再び同居を始めた時、その額はそのまま夫の部屋に飾られていた。ところが数ヶ月前、部屋の模様替えをした時に、夫が何を思ったかその額を出してきてリビングの壁に飾った。私はすかさず「もうこういうものは出したくないの。飾りたいなら今までどおり自分の部屋に飾って」と告げた。その時、夫と私の時間の流れ方の違いというか、家族に対する捉え方の隔たりをすごく感じた。なぜか夫の時間はこの笑顔の家族写真のまま止まっている、もしかしたら止めておきたいのかもしれない、と感じた。
映画やドラマで登場する家族写真はいつでも「こんな頃もあったのに…」という切ない気持ちを見ている側に起こさせる。たいてい主人公が家族写真を手にとり、ぼんやり眺めているシーンである。懐かしさと愛おしさと一枚の家族写真から派生してくる様々な暮らしのフラッシュバックと、もう戻れない取り返せない時間とそこから遠く隔たってしまった今と、そして最後に必ず「どうしてこんなことになってしまったんだ」「どこでどう間違えたんだ」という強烈な悔恨がふきだす。すなわち、その主人公の家族には握りしめている家族写真のように幸せや平和がそのまま続いてはいかなかった、儚く消え失せて惨憺たる真逆の現実になっているという哀しい証拠のように家族写真は扱われる。そう、過去の平和な家族写真は今の哀しみや不幸の証拠写真なのだ。
昨日見た映画『葛城事件』の家族写真もやっぱりそういう使命を帯びて映画で使われていた。家族へ対する愛情が暴君のような抑圧になっていることを自分では全く気づかず、妻や息子を萎縮させ、徐々に精神を蝕ませ、従順でも対人関係が苦手な長男はリストラのち自殺、妻は精神崩壊し入院、次男は引きこもりからの無差別殺人へと追いやることになる父親の役を三浦友和が演じている。その父親がやっぱり昔の家族写真をひとり見つめるシーンがある。そこには映画ポスターのキャッチフレーズ「俺が一体、何をした。」のつぶやきがどうしても重なってしまう。そういえば、妻より夫、女より男の方が映画やドラマで写真を見つめる率が高い気がする。昔から過去の思い出を吹っ切れず未練がましいロマンチストは男の方だからか。
そういう家族写真の使われ方を見てきたためか、私は子どもたちも成人した今さら、わざわざ幼い頃の家族写真をリビングに飾ろうとはどうしても思えない。そんなものを見たらどうしたって今をあの頃と比べてしまう。今の哀しみと不幸の証拠写真にはしたくない。夫が家族写真を飾ろうとする意味はもしかしたら「あの頃に戻りたい」あるいは「戻れないまでもここから歩いてきたことをしっかり憶えておきたい」なのかもしれないが、私の方は「もう終わったこと、過ぎ去ったこと、そこには戻れない。いまの私たちは誰もそこにはいない。すべては変わっていく。現実を見つめて今のお互いと向き合いたい」なのかもしれない。家族写真をリビングに飾りたがった夫だけが、なぜか家族写真の昔にとどまろうとしていて、そこからでしか私や子どもたちを見たくないような、変わってしまった家族を認めたくないような、そんな気がしてしまう。それは三浦友和が演じた恐ろしくも哀しい父親の一方的な愛情にどこか似かよっている気がして複雑でもある。


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by zuzumiya | 2017-03-20 21:04 | わたしのお気に入り | Trackback | Comments(0)
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