暮らしのまなざし

独り者にも春がきた

だいぶ春らしい陽気になった。自転車を出すのもひと頃より億劫でなくなった。毎日、通勤で走る道の脇に古い木造のアパートがある。名前はわからないが、ペンキの剥げた外階段のついた、いかにも昭和の「○○荘」といった感じのアパートで、駅からも遠く、車二台がすれ違えない狭い道路沿いに背の高い竹やぶが覆いかぶさるようにあって、いつでも薄暗くジメジメした所である。窓側を見ると六部屋あるが、そのどれもがいかにも男の独身者か高齢者の一人住まいといった感じの茶色や黒の野暮ったいカーテンを吊るしていて、どの部屋も少しだけ開いたカーテンの隙間から室内干しの洗濯ピンチが覗いている。道路沿いのブロック塀の中、ちょうど一階の端の部屋の窓脇に、背の低い木が植わっていて、冬場はここに木があることすら気づかなかったが、この木に白い花がチラホラついて白梅だとわかった。大家さんが昔植えたものだろうか。よく見るとあまり道路にはみ出さないように剪定した跡もある。一階の端の窓もカーテンがほんの少し開いていて、中にしなびた茄子のような黒い靴下が侘しくぶら下がっている。あそこの住人もカーテンを開けるたび、あの小さな白梅を目にしているはずである。時には窓を開けて、その匂いをそっと胸中に吸い込んだりするのだろうか。そうやってまた今年も春が来たことをなんとなくひとり噛み締めていたりするのだろうか。ああ、春だ。春が来た。


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by zuzumiya | 2017-03-05 16:14 | 日々のいろいろ | Trackback | Comments(0)
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