『老妻だって介護はつらいよ 葛藤と純情の物語』にため息

先日、NHKの番組でノンフィクション作家の沖藤典子さんの亡き夫の介護のお話を知った。
沖藤さんは結婚以来、あることがきっかけでずっと夫を恨んできた。夫の方も「顔も見たくない」とはっきり罵るほどで、妻だけでなく子どもにも冷淡で、家庭そのものを毛嫌いしていた。何十年も互いにただの同居人のように過ごし、夫婦仲の冷え切った老夫婦の片割れがある時、病に倒れたとしたら、その老夫婦はどうなるのだろう。これまでの恨みつらみが爆発して「あんたの面倒なんか見るもんか!」とこの時とばかりに離婚するのだろうか。目の前で痛みに顔をしかめている病人に離婚届を叩きつけることができるだろうか。実はこの問題は今すごく私自身が将来を見据えて深く考えていることなのだ。沖藤さんは長年憎み嫌っている夫の介護を老妻として引き受けた。子どもをアテにできない老老介護である。夫婦の介護の話は心温まる美談が多いなか、沖藤さんのところは大嫌いな夫の介護をする葛藤する老妻という立ち位置で始まるのでひどく興味が湧いた。私も今のままでは沖藤さんのようになるだろう。沖藤さんの葛藤の中身が詳しく知りたい。結局、沖藤さんの夫は亡くなってしまうのだが、その後の心境を彼女はどんなふうに説明してくれるのだろうか。で、『老妻だって介護はつらい 葛藤と純情の物語』を読んだ。読んでいて「何故、熟年離婚を選ばなかったのだろう」と何度も思ったが、実は60歳の時点で一度離婚していたが、3年後に復縁しているらしい。どうやら「出て行く」と啖呵を切った夫の方が出ていかなかったようだ。でも、惜しいことにその辺の詳しいことは書かれていない。同居人のようだとはいえ、一緒に夕飯を食べたり、テレビを見ては政治家の悪口を言いあったり、買い物にも行ったり、時には孫も連れての家族旅行にも行っていたと書いてある。おそらくは日々の暮らしというレベルでは、互いに自室を持ち逃げ場があったので、同じ屋根の下に住んでいてもさほど苦にはならず、それぞれが仕事の忙しさにかまけていれば問題にならなかったのだろう。長年連れ添えば、ある程度の諦めが普通になり、一人同士という感覚が育ち、気楽だと思えていたのだろう。マンションでなく戸建てとなってからは、我が家も家庭内離婚がスムーズにできるほど見事にすれ違える。このまま離婚して、夫が出ていける貯金ができるまで同居人でもいいかと何度も考えた。沖藤さんの本の存在を知る前から、はやく離婚の決心をしないと夫が倒れてからは離婚できなくなるな、となんとなく思っていた。目の前で苦しむ人を足蹴にはできるほど鬼ではない。夫に助けられた恩情もある。しかし、それだけで微笑んで慈しんで介護できるほど自分の結婚生活と妻としての人生に納得ができてない。私にも沖藤さんのように夫に言ってやりたい、言わねばならないことがあるのだ。『夫婦いとしい時間』という本が足枷になって書くこともできない鬱屈した想いが実はある。若い頃のように大っぴらに喧嘩ができたらいいのに。いや、もうそうなったら本当に終わりのような気がする。
沖藤さんは書いている。〈問題の根は、自分の力で突き進むべきことを、夫に頼り、それがかなえられなかったと、一生恨んだことだ。〉これは大いに私にあてはまる。でも、これが分かったからとて今、夫が生きている今、自分の罪として贖罪の意識から目の前の暮らしや今後の人生がぱあっとひらけていくものだろうか。グジュグジュしたこの悩みや葛藤はなくなるものだろうか。正直、そうとも思えない。そこにはやはり沖藤さんが書くように“死”という〈永遠の不在〉だけが〈胸の荒野をあの世に持っていく〉ものなのではないか。
切ないのは沖藤さんが夫の病気を契機として〈人生最後の夫婦の日々〉があると望みを持っていたことだ。たぶん、そこがタイトルの“純情”なのだろう。私も前に書いた。若い頃は結婚に憧れ、中年になると仲睦まじく歩く老夫婦に憧れるものだと。女とはこれほどまでに純情なのだ。介護のなかにも穏やかさを見つけ、人生最後の夫婦の日々をひそかに心に描いていた老妻、沖藤さん。この言葉にこんなに揺さぶられるのだから、私の心の何処かにもまだ薄ら明るい希望があるのだろうか。
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by zuzumiya | 2017-02-04 23:20 | ちっちゃい器で生きていく | Trackback | Comments(0)
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