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情緒たっぷり昭和レトロなジオラマ~山本高樹「昭和幻風景」展

a0158124_831927.jpg芸術の秋。文化の日に息子のマスタングで千葉の市川の方まで家族で展覧会に行った。
私よりひとつ年上の山本高樹(やまもとたかき)さんというジオラマ造形作家の「昭和幻風景」という作品展である。彼のジオラマ作品はNHKの朝の連続テレビ小説「梅ちゃん先生」のオープニングに使用されたり、雑誌『荷風!』の表紙にも使われていたので目にしたことのある人も多いかと思う。私の場合は夫と行った青梅の小旅行でたまたま「昭和幻燈館」という久世光彦さんが喜びそうな名前の薄暗い館に足を踏み入れて出会った。後にそこは山本さんが開設したギャラリーだとわかった。今回はその青梅から作品を持ってきているのか、25点ほどが集められ、その他にも旅をしながらのスケッチ(漫画家の滝田ゆう、つげ義春の影響を強く感じた)なども紹介されていた。
彼のジオラマは昭和の街とそこに住む人々のレトロな暮らしをリアルに再現というより、彼自身の想像や願望を加えたひとつの物語のような、心象風景のような情緒豊かな作品である。そこには失われてしまった過去への懐かしさだけでなく、クスッと笑いたくなるユーモアやのほほんとした人間味への愛おしさがよく表れている。そして、街中を案内してくれるのは、あの散歩の達人、永井荷風である。絵本『ウォーリーを探せ』のウォーリーのように必ず目印のように荷風は街のどこかにいて、探し出すのはいつも楽しい。
彼のジオラマ作品の特徴というか、最高の良さは情感と郷愁を掻き立てる「灯りの風情」だと私は思っているが、今回の市川の展示室では部屋全体の照明がやや明るすぎた感がある。一体一体違う顔の表情や壁に貼られたポスターなど細密な作りをきちんと見せようと配慮したのだろうがもったいなかった。「昭和幻燈館」の方は暗幕をかき分けて入って行った記憶があるので、ほんとうに中は暗くて、そこにジオラマの建物の小さな窓や路地の外灯や連なる提灯の灯りがぼうっと浮かんで見えて、まさに幻のような別世界に迷いこんだ心地がした。
「昭和幻燈館」を見てジオラマそのもののファンになった。小さな、愛おしい世界をそっと覗き込むあの感じ。かがんで人形と同じ目線になって見つめる先の風景。「ここに入って暮らしてみたい」という酔狂な思いがジワジワくる。私は巨人でも優しい巨人なのだ。世界は壊したくない。そしてジオラマといえば、私にとってはもう山本高樹の、昭和ジオラマなのである。題材の選び方、風景の切り取り方、灯りの使い方、妄想の勝手な育み方…もうどこをとっても私のツボ。大好きなのだ。でもって山本さんは「やりすぎだよ」と言うかもしれないが、できれば灯りのついた窓の幾つかに内側から薄黒く人影があってもいいかなと勝手に思っているんだが、保育士らしくやっぱり影絵か人形劇みたいか?
ぐるりと見て回って、最後に家族それぞれがマイベストを教え合うということになった。
夫は夫らしく緻密な軽井沢の旧駅舎の風景を推した。息子は意外にも、ひなびた長野飯山の大根干しの冬支度がいいと言う。私に言わせれば、緻密さやリアルさより、もっとこう、胸をぐっと突き上げてくるような情緒が欲しい。私は夢町楽天地のヌード劇場の舞台裏や墨東の色町向島のような、遊び心ある伸びやかなエロチックなものが実に昭和っぽくて好きだし、つげ義春も好みそうな隠れ里の温泉の男女も好きだし、不忍池や見世物小屋の縁日の連なる屋台の灯りや提灯に子供のようにワクワクしてしまうが、やはり山本高樹は抒情の人だと思う。
両側から庇が突き出る狭い階段をトントントンと下りていけば、玄関先にぽつんと井戸があり、石畳には浴衣姿の匂い立つような湯上りの女性。路地奥の井戸広場、本郷。いるのは荷風とその女性だけ。あとは二人を包む温かな家々の窓の灯り。最低限にして最高な完璧さとそれゆえ醸し出される情緒と詩情たっぷりな世界。私は彼のいちばんには本郷の路地奥の井戸広場を推す。
三人三様で見事に好みが分かれたが、息子も加えた家族三人で芸術鑑賞ができたことは我が家にとっては初めてであり、これもまたいい思い出になった。次は覗きつながりで是非ともスコープ作家の桑原弘明さんの展覧会に二人を連れていきたいと思う。

※市川市文学ミュージアム企画展「山本高樹 昭和幻風景 ジオラマ展」11月27日まで。市川は山本さんの出身地で永井荷風が最後に住んだ地です。
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by zuzumiya | 2016-11-06 08:42 | わたしのお気に入り | Trackback | Comments(0)