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ふだんの暮らしに息づいているたいせつなもの、見つめてみませんか?


by zuzumiya
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猫のふり見て我がふり直す

落ち込む内容だったので書かないでいたが、実は我が家の飼い猫のももが家出をしていたのである。
9月最初の日曜日、深夜12時頃、夫がトイレに行っている隙に夫の部屋の網戸を自分で開けて出て行ってしまった。ももは窓のサッシも網戸も襖も手で開けてしまう器用な猫なのだ。脱走予防に100均で突っ張り棒を買って家中のサッシと網戸につっかえ棒をして開くのを防いできたつもりだったが、今回は夫がうっかりし忘れていた。こんなふうに今までも人為的なミスで何度か脱走されたことはある。でもすべて昼間だったし、「もうダメか」と縁側でガックリ肩を落としていても、2時間くらいで無事に帰ってきたのだった。今回は初の深夜の脱走だった。近所迷惑になるので声を張り上げて名を呼ぶわけにもいかず、朝には戻ってくるだろうと家の周りをひと巡りしただけで深く探さないで寝てしまった。
ところが朝になっても帰ってこない。昼になっても、夕方になっても、帰ってこない。鳴き声ひとつしない。ネットで迷い猫が帰ってくる方法として庭先に餌を置いたり、おしっこの臭いのついた猫砂をばらまいたりしたが、我が家の周りを縄張りにしている野良猫の三毛に餌をまんまと食べられただけで、夜になっても帰ってこなかった。それどころか、次の日もその次の日も、三毛が餌をねだりに来ただけで、雨が降っても台風が来ても、ももは帰ってこなかった。「今度こそダメかもな…」と4日目に役所や警察、保健所に連絡した。役所や警察にどこかから連絡が入るということは“猫が死んだ”ということであり、その辺を走り回っている野良猫・飼い猫に関しては何の情報も入らないということを今回初めて知った。それから、ももを譲ってくれた野良猫を保護するNPO団体にも連絡した。娘や職場の同僚やらが口々に慰めてくれるなかで、団体代表のおばちゃんだけはこっぴどく私を叱った。完全に飼い主側のミスなのだ。叱られても当然。きちんと叱られなきゃいけないのだ。
ネットを見ると半年や1年でも無事に帰ってきた猫もいる。あまり悪く考えず、「いずれは帰ってくるさ」とおおらかに構えていようと思っても、雨が続くと心配で、よく夢でうなされた。1週間経った頃、「本格的にダメかもしれない」と覚悟を決め、ももの写真を入れるフレームを買った。お香を立てて、「どこにいても元気でね」と手を合わせた。
ところが、ももは帰ってきた。帰ってきたのである。
ちょうど2週間目の日曜の朝方、4時半だったか、家の周りで猫が争う声がして、かすかにももの声に似ている気がしたのでダメもとで懐中電灯を持って庭へ出た。隣家との境を照らすと柵の上に茶色く丸まった尻が見えた。すかさず「もも、ごはん!」と声をかけるとこちらをふり向き「にゃ~」と鳴いた。「ももだっ!」と確信して家に駆け戻り、寝ている夫と息子に「ももが帰ってきた!」と声を張り上げた。おやつのカニカマスライスの袋をガザガサ言わせて「か~まかま」と言うとまたもや「にゃ~」と鳴く。庭の近くまで戻って来ている。サッシを開けてカニカマをひとつまみ床に置くと茂みから現れ、ぴょんと床に飛び乗り部屋に入った。よっぽど腹が減っていたのだろう。テレビ番組で紹介される嬉しさのあまり「にゃごにゃご」言いながら食べる猫のように声を立ててカニカマを食べた。下りてきた寝ぼけ顔の息子に缶詰を開けさせると、それもあっという間に食べた。体に触れると確かに背骨が手に触れて痩せてはいたが、外傷はなく毛並みも乱れていない。ただ肉球が剥がれてじんわり血が滲んでいた。爪もほとんどが折れていたり抜けて無かったりした。でも、母猫の私に会えて嬉しくてたまらないのか、それとも鳴きすぎて声が出ないのか、かすれたような甘え鳴きをしながらひっきりなしに体をすり寄せてきた。とりあえずノミやダニの心配から、もう一匹の飼い猫チビと隔離するために2階のベランダからケージを持ってきて中に入れた。すべてを終えたらとうに空は白んでいたが、ひと眠りしてから医者に連れて行くことになった。しかし、ももは眠っても私との再会を夢に見るのか「にゃあ」と鳴いて起き、私もその度に目が覚め、互いにあまり眠れずに起きるはめになった。
夫は脱出の責任をとり、自ら診察代を支払うと宣言した。実はこの猫の家出の一件で我が夫婦は再び離婚の危機に瀕していた。夫は自分のミスで猫が逃げたのに、喧嘩もふっかけずに落ち込む妻を放っておいて、普段は「金がない」と言っておきながら飲み会で深夜2時にタクシーで帰ってきたのだった。呆れかえって物も言えなかった。ももが見つかるまでの2週間、ほとんど口もきかず目も合わさずで、またもや1階と2階の家庭内別居状態であった。ももが無事に帰り、ももの体調や世話のことで会話が自然と復活し、離婚問題は真剣に話し合われることはなく、今、棚上げ状態になっている。
ももは病院から初めて“エリザベスカラー”を首につけて帰ってきた。消毒した肉球を舐めないためである。もともと片目が濁って視力が弱いうえにカラーである。動くたびにケージのあちこちにぶつかりうまく歩けない。そのうち、カラーが重いのか首をうなだれて歩くようになった。それがまた疲れるのか、少し歩いてはすぐにごろんと横になりうつらうつらしてしまう。夫は「ももは落ち込んでるんだよ。人間じゃないから、カラーがしばらくの間だけなんてわからないんだよ。せっかく帰ってきたのに変なもの付けられて、もう一生、このままかもって、落ち込んでるんだ」と言った。確かにそうかもしれない。帰宅後、段差にバコンバコン当たりながら階段をどうにか上がり、いつもの勢いで猫タワーのてっぺんに駆け上がろうとしてバコンバコン当たってずるずると無様に落ちたのを、年下猫のチビに見られた。チビは得体のしれないロボット猫のような化物が暴れていると目ん玉が飛び出るほど驚き、慌てて部屋から出て行った。久々の対面がああだったのだからかなりのショックだったろう。
それ以来、見事にチビはももを嫌ってしまった。ももは育ての親でもあるのに酷いものである。人間が懸命に「ももだよ。あのももちゃんが、帰ってきたんだよ」と感動的に伝えても、姿を見るなり「シャア」と威嚇する。チビが威嚇するもんだから、外で喧嘩を売られ鍛えられてきたももだって負けずに「シャア」とやる。猫は「2週間で互いを忘れてしまうものなのか」と思った。たしかにももがいなくなってからのチビは餌は食べ放題、タワーは上り放題、私を独占して甘え放題とやりたい放題だった。そのいいご身分がももの記憶を脳の奥に押しやってしまったのかもしれない。もしかしたら「今さら、どのツラ下げて戻ってきたのか。もうこの家のリーダーはア・タ・イなんだよ」と思っているのかもしれない。
大きなカラーは食事や歩行のみならず、トイレにも不便なようで、ももは帰宅してから一度も便が出ていなかった。あまりに不自由そうなのとカラーがあるからチビとの関係がスムーズにいかないのではと思って、2日目にええいと外してしまった。カラーが外れてももは体を舐めたいだけ舐め、心配ではあるが肉球も舐めまわし、満足して安心したのか元の俊敏さが戻った。チビも訳のわからないロボット猫のようなものから普通の猫だと認識できたようだった。ももの行動はいちいち気になるようで、一定の距離をおいてチビは大きな目玉を更に大きくして食い入るように見つめている。ももも見られているのはわかっているけど素知らぬフリで、わざと(私にはそう見える)堂々とやりたいようにやっている。「ごはん」と呼べば、ももが真っ先にすっ飛んで来て、食べたいだけ食べていく。以前から喰い意地は張っていたが、家出以来、ひもじい思いが更に喰い意地を強めてしまった。息子の部屋のベッド下に隠れているチビのそばにわざわざ餌皿を置いても、腰の引けてるチビより野良猫あがりの図々しいももが走って行って全部食べてしまう。以前は慌てて食べると決まってゲロを吐いていたが、「そんなもったいないことはもうできない」と戻ってからはどんなに食べてもゲロは吐かない。さっさと食べて猫タワーに駆け上がり、てっぺんを占拠して(猫は高い方にいる方が地位が上である)のうのうと横になって肉球の手入れをしている。ももがいない間、チビが寝転がっていた出窓のクッションの上も、どんなにチビの匂いがついていてもももは平気で横たわり、すやすや寝息を立てている。チビはやられるがままにそういう姿を遠巻きに眺め、静かに用心深く背を丸めている。
4日目の今日はチビの方がだいぶ慣れたのか、「同じ屋根の下、いがみ合ってもしょうがない」という気持ちで折れてきたのか、たまに2匹がすれ違ったり、ももの後に付いてチビが階段を下りてみたり、ももが出窓に、チビは隠れず私のベッドの上に、という具合に同じ空間にいるようになった。でも、時として正面で顔を合わし、カチリと目が合うとチビから先に「シャア」と威嚇し、「負けてなるものか」とももも威嚇する。間に入った私に叱られ、すごすごと去っていくのはいつでもチビ。ももはフンとすまして歩いていき、プライドをかけた猫タワーのてっぺんに駆け上がる。
そういう2匹の姿を見ているうちに、ふと「こりゃ、我が夫婦の姿にそっくりだな」と思った。互いに何食わぬ顔をしてすれ違うが、実は頭の中は相手のことでいっぱいで、ガンガンに意識して気を張っている。家庭内別居の真っ最中は、互いが相手の物音に敏感で、「今、風呂に入ったから、冷蔵庫を開けに行けるな」と相手の行動を読み取りながら自分の行動を決めている。同じ屋根の下とはいえ、近くにいると気詰まりなので、台所の食卓とリビングのソファぐらいに離れていると少しは落ち着いていられる。もものように私は好きなものをたらふく食べて夫のために残すことはない。眠くなれば勝手に寝てしまう。片や夫はチビに似ている。何か気に障るとすぐに自分の部屋に閉じこもって出てこない。食事だってとろうとしない。ちょっとしたこと(例えば塩のフタがちゃんと閉まってなかったとか、ガムテープが所定の位置に戻されてなかったとか)を相手に指摘すると「そういうアンタだって」とすぐ口喧嘩に発展するのは、猫の威嚇の応酬である。
こうなってくると私はももが帰ってきたことが単なる奇跡とは思えないのである。神様はきっと(いや、神様じゃなく私の死んだ祖母だったりして)ももをうちに帰すことで夫婦に会話を取り戻させ、ももとチビのやり取りを見て、自分ら夫婦の馬鹿げた不毛な関係に気づかせたのではないだろうか。ももとチビはいづれ元の関係に戻る予感はする。ももはきっともものままでチビが慣れてそのうち折れる気がする。餌も居心地のいい寝場所も確保されてあるのだから、別に争う必要はないのである。同じ屋根の下という空間に収まっていさえしたら、あの2匹の猫のようにもう一度リセットして、折り合って生きていけるものだろうか。
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by zuzumiya | 2016-09-22 00:22 | 日々のいろいろ | Trackback | Comments(0)