クリスマスリース

送別会で同僚からプレゼントをもらった。
包みを開けた瞬間「あ、リースが帰ってきた!」と思った。
彼女がくれたのは真っ赤なバラのついた素敵なクリスマスリースだった。

子供たちが大きくなって、いつの頃からか、クリスマスの飾りつけもやらなくなった。
クリスマスに家族が揃うことが自然となくなったからだ。
それでも押し入れのなかには兜や雛人形のように、ツリーもダンボール三箱分の飾りも眠っていた。最後にそれがなくなったのは、夫と別居した去年。押し入れの空いた隙間を片づけている時に「もうこれもいらないかな」と思って、すべて捨ててしまったのだ。

私が保母だった昔は12月ともなれば、本棚にはサンタクロースやツリーの絵柄のクリスマス絵本を並べ(毎年1冊ずつ買っていた)、棚の上には天使のロウソク立てや踊るサンタクロースの人形やオルゴール仕立てのピカピカ光るサンタの家を飾っていた。ある年の冬は、リビングの天井まで届く巨大なツリーを母が買ってきてくれて、そこに顔が映り込むほど大きな金の球と数百もの白い豆電球を幾重にも飾った。もちろん、玄関には新婚時代に買った可愛らしいリースをかけ、リビングの壁にも母が持ってきた電飾のリースをかけた。
クリスマスは息子の誕生日もかねていたので、毎年母が来てプレゼントをこれでもかと買いまくってくれたし、一緒に豪勢な食事を食べて、それをビデオにただ延々と撮るというならわしで、我が家では一年でいちばん盛大で楽しいイベントだった。
後年、子供たちの話によれば、息子が中学になって、友人たちからの話と我が家の経済事情もあって、サンタクロースの真実がバレて、それと同時に二歳年下のまだ小学生の妹のところにも突然サンタクロースが来なくなってしまい、娘はこのいきなりのサンタクロースの消え方をずっと根に持っていたらしい。子供たちの間では親のドジさかげんに呆れて笑い話になっているが、その話を娘から言われるたびに、今でも申し訳ない気持ちになる。

同僚の彼女はたしか戸建てに住んでいて、一人娘のお嬢さんは留学かなにかで海外に行っていて、旦那様と猫二匹の暮らしだったと思う。シフトからも私のようにあくせく働く必要のない余裕のある暮らしぶりがうかがえた。送別会のプレゼントとしてクリスマスリースを選んでくれた彼女だから、きっと自宅の玄関のドアにはもうすでに素敵なリースが飾ってあるのだろう。
自転車で住宅街を走っていると、玄関にクリスマスの赤いリースが飾ってあるお宅がいくつかあって、それを見るたび、なんだかその家の幸せと家人の心のゆとりとをリースが誇らしげに物語っているような気になる。「ああ、この家、幸せそうだな」と感じてしまう。

実際、リースのようなクリスマスの飾りつけを嬉々として付けていた頃の私は、やっぱり家族に囲まれて幸せだったと思う。特別な日を楽しみに待っていた。出費はあるけど、いつでも土壇場に母が助けてくれて、絶対いいことがあって、子供たちがすごく喜んでくれて、家族みんなが笑顔になれた。

子供が成長して、友達との付き合いを優先して「今年はいいや」と言われるたび、「ああ、家族の時代が終わろうとしてるんだな」と感じて、クリスマスはだんだん過去のきらびやかな思い出になっていった。そうやって、なんだか大切な何かが少しずつ体から抜けていって、まるで夢から覚めるように、すーっと静かに、心が平らになっていった。
ほんとうなら、家族で盛大に祝うクリスマスから大人のシックなクリスマスに移行できたはずだけれど、移行できたとしても、きっとその後は続かなかったと思う。やはり私にとってクリスマスは、家族のものでしかなかった。恋人時代より新婚時代より、いつの時代より、家族の時代が、いちばんクリスマスが楽しかった。そう思う。

ところがある日、同僚の彼女が突然、クリスマスリースをくれた。
まるで結婚式のブーケトスのブーケみたいに、この手にぽんっと届いた。
我が家に再びリースが来た意味を、ここ数日ずっと考えていた。
リースを飾れるような家じゃない。自分で壊して、もう何もかも終わったんだ。
そんなことばかり、考えていた。

でも、ある朝、光のなかで真っ赤なバラと木の実の精巧なリースをしみじみ眺めていたら、もしかしたらカミサマが「ほら、もっと、素直に幸せを呼び込みなさい」と言っているのかな、と思えてきた。それなら、それでもいいかと、ふっと思えた。
不幸って、事故だとか病気だとか災害だとか人間関係の不和だとか、なんだかそういう禍のことを言うだけじゃない。幸せを願う気持ち自体がすうーっと薄れていってしまうこと、それもあるなぁ、と思う。ドツボにはまると、気持ちはただ凪の海のようになって、何も感じなくなって、願いなど生まれてくる気力もなくなる、どうでもよくなる。

包みを開けた瞬間の「あ、リースが帰ってきた!」と思ったあのぱっと華やいだ気持ちが私の本音なら、なんだか私はまだ、幸せに見放されていないのかもしれない。
ぜんぶなんて、なくなっていないのかも…。
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by zuzumiya | 2014-12-04 16:59 | 日々のいろいろ | Trackback | Comments(0)
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