暮らしのまなざし

湯上りの妊婦さん

中学でも高校でも、そばに寄るとふんわりいい匂いのする女の子というのが必ずいて不思議だった。
そういう女の子はみな共通して色白でぽっちゃりしていて背は低く、性格は控えめで温厚な子だった気がする。あの匂いは思い出してみると、シャンプーとかボディソープとか衣類の柔軟剤とかの人工の匂いとは違った。なにかこう、直に肌から立ち上ってくる、むうっとする生あたたかな生き物のやさしい匂い、つまりは体臭だったのだろうが、あれこそフェロモンだったんじゃないかと今は思う。
私はといえば、幼稚園時代から男の子をとっ捕まえてはぶっ叩いて泣かしたり、小学校時代はドッチボールで男どもをことごとくのしてきた男勝りな子だった。母が10代で家出をして妊娠したこと、ずっと水商売で生きていることが祖母の人生の恥で、祖母に育てられた私は厳しい管理のもとで「女らしくすることは淫らなことにつながる」と刷り込まれて、小学校時代からスカートは一切はかず、髪もずっとショートで、風貌だけじゃなく精神性も常にボーイッシュできた。だから、自分の体から女性特有のフェロモンのいい匂いなんて出るはずもなく、いつだって(今だって!)、塩辛い汗の匂いぐらいしか出てこなかったと思っている。
実際、先日、家に帰って紺色のTシャツを脱いだら、脇の下に白く塩を吹いていてギョッとした。そんなんだから、まるで男の人のように、いい匂いのする女の人というのに、ちょっと憧れている。
娘は私とは真逆である。化粧品にやたら詳しく、中学に入った当初から日焼けを嫌い、せっせせっせと美白を心がけたため、腕を並べて比較してみても、私がまるで黄疸にでもなっているかのごとく色白である。彼女は常により美しくなるためにはどうしたらいいか模索し、雑誌を見て研究し、売り場を歩く労を惜しまず、あらゆるものを試し散財し、自分磨きに投資した。自分で言うのもなんだが、私の娘とは思えないきれいな子に育ったと思う。その娘から私はときどきいらなくなったボディークリームやハンドクリームを譲り受ける。
先日は私の好きなフリージアの香りのするボディークリームを貰った。私は喜々として、職場につけて行った。職場は老人ホームなので暖房がいまだ入っていたりする。さらに私はせっかちで、時間短縮のために走らなくていいところをムダに走ったりする。更年期ということもあるかもしれない。とにかくよく汗をかく。だからこそフリージアの香りづけを目論んだのだが、これが見事に失敗した。汗が吹き出ると、なんだか自分の周りに「昭和のオジサンのヘアトニックの臭い」がプーンと立ち込めるのだ。匂いの比喩があまりにドンピシャで、我ながら凄いと感心しかけたが、焦れば焦るほど汗が吹き出し参った。フリージアのボディークリームは大好きなのだが、あれ以来、休日の夜の風呂上りにしかつけていない。
この話を娘にしてかわりに貰えたのが、グレースコールブティックのハンドクリームである。このハンドクリームの匂いがまたいい。娘のは「ワイルドフィグ&ピンクシダー」という香りの種類なのだが、手にすり込むとあの、中学・高校時代に嗅いだような女の子特有のフェロモンの匂いに近い、むうっとするけど淡いやさしい香りがするのである。
このシリーズは実はボディークリームも兼ねていて、なんと体に塗ることもできるのだそうだ。俄然、うれしくなった。憧れのフェロモンを48にして、びんびんに世に放つことができるのである。「鎖骨あたりにでも、ひと塗りしちゃおうかな」なんてほくそ笑んだりする。でも、先日の汗と混じった時の大失敗もあるのだし、目をつぶってよくよく嗅いでみれば、この匂いは遠くかすかに「湯上りの妊婦さん」を想起させるような(比喩を考え過ぎなのかもしれないが)微妙なところもある。ここはひとつ冷静になって、体に塗るのだけはやめておこうと思っている。まずは普通にハンドクリームとして使って、「遅れてきた女のシアワセ」を単純に噛み締めようと思っている。
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by zuzumiya | 2014-04-13 23:09 | わたしのお気に入り | Trackback | Comments(0)
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