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フェミニンじゃなく、あくまでもアンニュイな

美容院で髪型を指示するのが苦手である。
なので、いつでもこちらのイメージしたようには仕上がらず、美容師との信頼関係がイマイチできずに、やがてはその美容院に行くのをやめてしまう。それを繰り返す自分を昔は“美容院ボヘミアン”と呼んでいた。そんな私がここ三年ばかりは同じ美容院に通っている。
私の髪をやってくれるのはその店の女店長さんだが、こちらの言うことをわかってくれる、気持ちを汲んでくれる、そういう意思疎通がわりとスムーズに行くのでそこのお店に落ち着いたというわけである。
たとえば、私は彼女になら「洗剤のアリエール(※現在のではなくひとつ前)のCMの生田斗真の髪型にしたいんだよね」と言えるのである。すると、彼女はニコッと笑って、iPadですぐに「アリエール、生田斗真」と検索をかけて、指でびよ~んと拡大してみせて、「ふむふむ、これはですね、おそらく後ろはあんまりカットしてませんね。パーマで外に跳ねさせてるだけですね」なんて、真剣に説明してくれるのである。
腹の中でどう思っているかは知らない。「生田斗真だと?コラァ」と思っていたとしても、おくびにも出さず、生田斗真を口に出した私のなけなしの勇気をちゃんと受け止めてくれるのだ。
それでもすかざず私は“生田斗真”に拘っているわけじゃないと「そうなの? でもイメージとしては、こう、フランスの男の子みたいに首を出して、全体的にシナシナしたゆるいパーマをかけて、俯いて前髪がふっと垂れると、実にアンニュイな雰囲気が漂うようにしたいんだよなぁ」とか、またしても言ってのける。この“アンニュイ”というワードも、普通ならやんわり顔が赤らむ種類のものだろうが、彼女になら堂々と言えるのである。
「アンニュイねえ…」
「そう、アンニュイ」
「人によって、アンニュイの捉え方が違いますよねぇ」
「そうねぇ。日本語で言うならば、物憂げな感じ?」
「ふんふん、物憂げねぇ。フェミニンじゃなく、あくまでも物憂げなのね」
「そう。フェミニンだと甘すぎる感じ。なんて、オバサンの私が“物憂げ”をやったら、単に“陰気くさい”だけかもしれないけど」
と笑って、自虐ネタにした私の髪を彼女はふわふわと指先で触りながら、長さをチェックする。そして、
「承知しました。後ろだけ切って、前は残しておきます。いいですか、ここの髪の毛が顎のラインにまで伸びるまで、絶対切っちゃダメです。今日から私が責任を持って髪の毛を管理します。切るなら後ろだけです。伸びるのが早い方だから、たぶん、6月ぐらいには“アンニュイな生田斗真”になれますよ」
と、鏡越しに私を見てニコッと笑った。
いつのまにか「アリエールの生田斗真」が「アンニュイな生田斗真」になったが、こういう大胆な提案をしても、彼女はちゃんと真摯に応えてくれようとする。しかも、「髪の毛を管理する」なんて、なんだか専属のヘアスタイリストがついたみたいでまんざらでもない。
というわけで、私の髪型は今はまだ完成形じゃない。伸ばしている途中である。何でもそうだが、“途中”というものを評価してはいけない。6月には前髪がはらりと落ちて、爪を噛むのさえアンニュイに決まる髪型を披露できるはずだ。とはいえ、そんなことを周りにいちいち説明してまわるわけにもいかず、職場の同僚の男性には「いつも頭がボサボサじゃん」と笑われている。こういう奴はオダジョーや浅野忠信の頬に流れる髪の一筋や髭面のなんともいえない色気が分からんのだろう。
「あのね、ここの髪が顎まで伸びたら、全体的にパーマをかけ直してアンニュイな感じに変化するんだってば!」と言いたいが、「なんだそれ」とまた笑われそうな気がするので言えずにいる。
by zuzumiya | 2014-03-22 11:43 | 日々のいろいろ | Comments(0)
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