人生についてまわる音

例えば、引っ越すたびになぜか川のそばに住んでいたり、坂道があったり、公園の近所だったり、どんなに移動しても人生についてまわるものがある。
私の場合は、それが電車の音で、もともと生まれた家からして線路端にあって、目の前を小田急線やロマンスカーが走っていた。同棲時代は世田谷線の線路のそば。結婚してからは田園都市線、今は西武線。先日、夫の住む家のトイレに座っていたら、風に乗って遠く武蔵野線の電車の音が響いてきた。そういう引っ越しにまつわる不思議な縁にふと気づいたのは、深夜の風呂場でだった。
浴用剤の白濁した湯から膝小僧の小山をぷっくり出して、私は静かに湯船に浸かっている。頭に浮かんでくるのは今日一日の出来事の断片、人の顔。湯の中でほとびてうねっていく昆布のようになって、ぼんやり風呂場の壁を見つめている。そんな時、聞こえてくるのが遠くを走っていく電車の音。天井の換気口からゴーッと音が来て、ゴーッと音が去っていく。その移動していく音の、次第に遠く細くたなびいていく感じが、深夜の風呂場に響いて、私は一層、しみじみと静寂を感じる。そして目をつぶり、うっとりする。
見えてくるのは夜の闇に切り込んでいく白い窓の連なり。車体は黒く闇に溶けている。
ほんとは西武線の通勤電車なんかじゃなくて、夜汽車がいい。昔の東海道線のように向き合う座席の、人はまばらで、みんなじっと目を閉じ眠っているような夜汽車。そこに私はぽつんと一人座って、頬杖をついて窓の外の闇を見ている。外灯が時折、迷い蛍のように流れていく。私はどこへ運ばれて行くのだろう。やっぱり夜汽車だから、北だろうなぁ。なんて、湯船に浸かりながらやんわり夢想する。
ノスタルジー。これが、電車の走る音の中で育ち、どこへ引っ越しても辺りが静かになる夜になればかすかに聞こえてくる電車の音を枕に眠ってきた私のノスタルジーかと思ったりする。
遠くを走る電車の音。それを耳を澄まして夜に聞く。理由などなく、そこに圧倒的な安らぎを感じる。
次に引っ越すとしても、私はきっと電車の音が聞こえてくる場所に住むのだろう。そう人生に約束されてる気がする。
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by zuzumiya | 2014-03-22 11:10 | 日々のいろいろ | Trackback | Comments(0)
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