暮らしのまなざし

あなたならその時、どうする?

昨日、初めてスーパーで万引きを見た。
私のすぐ目の前にはショッピングカートを押してヨーグルトを物色している70代後半ぐらいのおばあさんがいた。何の気なしに見ていたら、おばあさんはヨーグルトをひとつ掴むと、カートにぶら下げた白い手提げの中にひょいと入れた。
「え、まさか万引き?」と即座に思ったが、「いやいや、カゴじゃなく手提げの中身を出して最後に精算するのかも」なんて思って(今思えばそんな精算の仕方ってないだろと笑えるんだけど、その時はとにかくそう思って←人間の脳ってビビると良い方に解釈するんだね、面白いよね)、後ろからそのまま様子を見ていると、おばあさんはもう一度売り場にかがんでヨーグルトを掴むと、今度はちゃんとカートの中のカゴに入れたのだ。
「じゃ、さっきのは万引きじゃん!」と思ったが、なにしろおばあさんの動きにはまったくよどみがなく、実に堂々として、というか、いたって普通だったので、ほんとに私が見たのは万引きだったのか、何か別のちゃんとした理由があっての行動なのか、自信がなくなった。
周りを見たが、店員はいない。
よくテレビでやってる“万引きGメン”らしき女性はいるかと探したが、それらしき人はいない。「あれは万引きが続いていて、困ってる店が雇うんだった」なんて考える。
振り向くと驚いたことにレジは結構近かった。レジの店員は当然ながらレジ打ちに集中していて下ばかりを向いている。誰も気づいてない。実に大胆な犯行である。
と同時に、やたらにドキドキしてきた。
「どうしよう、見つけたのは私だけだ。店員さんに言うべきか」
「でも、何て言おう、『あの人万引きしてますよ』? いや、『万引きしてるかもしれません、調べてください』か?」
「でも、私が間違っていたら、ゴメンナサイどころの騒ぎじゃないぞ」
頭の中では、店長が控え室の机に白い手提げの中身をぶちまけて、たしかにヨーグルトは出てくるが、よく調べると他の店で買ったシールが付いていて、店長と私が凍りつく映像が浮かぶ。
どうしていいかわからなくなった。
当のおばあさんは、カートをすいすい押して、余裕の横顔で角を曲がっていく。
「いいや、忘れよう。不確かなんだから、見なかったことにしよう」
気の弱い私はそう結論した。
だが、心臓のバクバクは依然として治らない。テレビでは孤独な独居老人が人の気を引きたいがために病的に万引きを繰り返していた。ならば、あのおばあさんも心の病なのか。そんな弱ってる風には見えなかったが…。
仕方なく私も買い物をはじめる。でも、あまりのショックで何を買うんだったか思い出せない。陳列された商品をただ目で追いながら、頭の中ではヨーグルトを手提げに入れた瞬間のおばあさんの映像ばかりが繰り返される。顔を上げたら、通路の先のレジにおばあさんの背中が見えた。別段、キョロキョロしている風もない。テレビでは、出口を出た瞬間に“万引きGメン”らが駆けつけて捕まえることになっていたが、「ここじゃ、そんな大層な事件めいたことは、絶対起きないよなぁ」と弱気になる。
結局、次に見たときは袋詰めの所で、持ってきた白い手提げにカゴの中身をぜんぶ入れ終わった後だった。なんだかんだ言って、まるで私が“万引きGメン女”のようにおばあさんの行動を遠巻きにじっと見ていたが、考えてみれば、私の方がろくすっぽ買い物もせず(カゴはほとんど空)、陳列棚に身を寄せて何かを伺うような怪しい行動をとっていたわけで、もし、ほんとうに“Gメン女”がいたら、おばあさんではなく、私こそ疑われるだろうと想像して可笑しくなった。
少ない買い物を終え(気もそぞろで必要なものは何ひとつ買えてなかった)、外へ出てみると自転車置き場にまだおばあさんがいた。一度だけ、ほんの一瞬だけ、おばあさんと目が合った。じろりと見られて、気のせいか、やけに冷ややかな目だった。
でも、すぐに目は逸らされ、おばあさんは自転車を押して前を向いた。知り合いのおばあさんが歩いてきたようで、声をかけた。おばあさん二人は立ち話をして笑っている。そこへもうひとり、おじいさんが歩いてきた。例のおばあさんがおじいさんにも声をかける。おじいさんはにこやかに挨拶を返した。
私にはその様子が「あんたが思うような悪人じゃないんだから、私にはこんなにも知り合いが多いんだから」と見せつけているかのように思えた。あるいは、「今日もうまくいった」と達成感から内心ほくそ笑んで、上機嫌であるかのように。
私は昔、その“万引きGメン”番組を見る前までは、万引きというのはまったくお金のない人がお金に困ってやるものだと思っていた。でも、実際はそういうケースより、多少でも何かを買うお金を持っていて、買い物をカモフラージュにしてさらに万引きをするという巧妙な手口が多いらしい。例のおばあさんも買うお金は持っていて、わざわざレジにも並んで、でも、たったひとつのヨーグルトを買わずに盗んだ。買えないなら我慢するか、何か他の商品を取りやめるかすればいいものを。いやらしい、と思う。
しかし、はっきりこの目で見たのに、何も言えずに結局は見なかったことにした私は、自分でもひどく情けなかった。
でもね、万引きって実際目の前で見ると、「まさか!」って感じで取り乱して、ほんとうにこっちがドキドキしちゃって、何にもできないんだよ。
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by zuzumiya | 2014-03-18 22:33 | 日々のいろいろ | Trackback | Comments(0)
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