暮らしのまなざし

あの頃の空気には

よく言われている長年一緒にいて慣れ親しんだ夫婦の、空気のような互いの在りかたについて。私が話をしたいのは「空気がなければ生きていけないでしょ」というあるなしの価値の話じゃなく、ほんとにその場の空気というか雰囲気の話だ。
今日はたぶん夫は宿直明けである。別居前は普通に彼が帰宅して、最近は眠らないというから、おそらくはパソコンの前に座り、メールやいくつかのネットやニュースを見たり、郵便物や机の簡単な整理(いつも最後までしない)をしたりして、彼なりに自分を取り戻すためのお約束の時間を費やし、だんだんと馴染んでいき、私はやはり日常の細々とした家事をぱたぱたと片付けた後、それぞれの時間を乱さない程度の静かで温和な音楽をかけ、同じくパソコンに向かったり、読みかけの本を開いたりする。同じリビングの向こうとこっちで。
ストーブの上の薬缶がシュウシュウしだせば、それをきっかけにどちらかがコーヒーを入れに立ち上がったりする。いくつかの言葉を交わすこともある。例えば、私が文章を書いているとしたら、「ねえ、あれって、何て言ったっけ?」とど忘れした物の名前を聞いたり、「この使い方で合ってる?」と、今しがた書いた一文を読み上げることもある。彼の方は面白いニュースがあれば話しかけてくるが、たいていの場合は黙っている。
今考えれば、この、なんということもない二人の時間に流れていた空気。二人をやわらかく自然に取り巻いていた空気。あの自由で、許されていて、緩んでいて、静かで、ほのぼのとしていて、淋しくもなく、退屈でもなく、不安でもなく、安らかに満ちていた空気。そういうものに自分は何不自由なく存分にくるまっていたんだと、今日、ふと気づいた。
淋しさというのは、たぶん、この目に見えない空気それ自体のことだ。
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by zuzumiya | 2014-02-24 13:05 | 日々のいろいろ | Trackback | Comments(2)
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Commented by 山口 at 2014-02-25 00:00 x
長田弘さんの大切かものという詩を思い出しました。
Commented by zuzumiya at 2014-02-28 16:19
山口様、再びのコメントありがとうございます。
長田弘さんは私も好きな詩人の一人です。が、私の文章から思い当たる詩がありません(笑)。長田さんはもともとエッセイから好きになりました。『小道の収集』とか『私の好きな孤独』(これは詩文集かな)『記憶のつくり方』『すべてきみに宛てた手紙』など。もし静かな時が持てたなら、読んでみて下さい。私もまた図書館で詩集と『自分の時間へ』を借りました。

ふだんの暮らしに息づいているたいせつなもの、見つめてみませんか?
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