正真正銘のラヴァーズ!~『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』~

a0158124_0312118.jpgジム・ジャームッシュの4年ぶりの新作『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』を見に行ってきた。実に私好みの世界でうっとりさせてもらった。

何世紀も生き続けてきた吸血鬼のアダム(トム・ヒドルストン)とイヴ(ティルダ・スウィントン)のラヴァーズ。アダムはアメリカの荒廃した都市デトロイトに住み、アンダーグラウンド・シーンでカリスマ的人気を誇る伝説のミュージシャン。ヴィンテージ・ギターをこよなく愛し、名前を伏せて作曲活動をしている(実は何世紀にも渡って)。でも、最近は地球にはびこる人間たち(“ゾンビども”と呼ぶ)の蛮行にほとほと嫌気がさして自殺を考えるほどブルーになっている。片や永遠の恋人であり、妻である吸血鬼のイヴは、モロッコのタンジールに住んで、16世紀末に死んだとされているイギリスの劇作家クリストファー・マーロウ(ジョン・ハート。彼もまた吸血鬼)から上物の血液を手配してもらいつつ、文学に耽溺しながら生きている。アダムもイヴも現代においては、人間の血液はもはや汚染されていて、むやみに人を襲うことはせず、医師から極秘のルートで血液を手に入れて何とか生き続けている。
二人は離れていても現代に生きる吸血鬼らしく、iPhoneを手にし、PCを駆使してSkypeで話をしたり、YouTubeを愉しむ。
落ち込むアダムを慰めようとイヴがタンジールからはるばるデトロイトにやってきて、二人は自分たちだけの、浮世離れした(吸血鬼だから当然だけど)、自由で悦楽的な日々を過ごすのだが、そこへ、イヴの奔放な妹、エヴァ(ミア・ワシコウスカ)がやって来て、二人の穏やかな世界は乱されていく…。

このアダムとイヴのラヴァーズぶりが、もう私の理想そのものである。と書くと、いかに自分がスノッブであるかバラしているようなものだが。
アダムは翳りのあるハンサムな顔立ちのミュージシャンで、彼が聞くもの奏でるものはぜんぶ趣味がいいし、ヤスミンを発見したときのように本物を聞き分ける耳を持っている。文学やファッションだけじゃなく、科学にも精通していて、いかにも繊細なロマンチスト。イヴもまた恋人アダムの収集するヴィンテージ・ギターを一目見て、その名を言い当てるほどの博識ぶり。
何世紀も生きてきた二人は、上物の血液を小ぶりのアンティークグラスに入れてゆっくりと味わう。全身に染み渡る快感に恍惚の笑みを浮かべて牙をあらわにしながらのけぞる瞬間は、ものすごくエロティック。思わず、観客の誰もが吸血鬼の五官を羨むだろう。あるいは、イヴが作った血液を凍らせたアイスキャンディー(なんとチャーミングなアイデア!)を舐めながらするとめどない会話(チェスをしていたのはこの時だっけ?)。残念ながらこの辺の会話なり、そこここに散りばめられた偉人の名前や皮肉めいたユーモアや洒落っ気などは知識も教養もないのでまるで分からず、悲しいかな、右から左で、後でパンフを買って調べなければならなかった。

二人とも超インテリであり、共通の趣味嗜好と美意識(サングラスはともかく、吸血鬼が革の手袋してるなんてエレガント!)があり、それは彼ら二人だけに通じる言語で世界を完全に閉じてしまっているという意味で甘美だし、世紀を越えて宇宙的に、永遠の分身、唯一無二の存在であり続けるというのがため息がでるほど羨ましい。アダムとイヴの美しいラヴァーズは、二人だけの空間で口にするのは美酒のような血液をほんの少し。それだけで高貴に純潔に生きながらえてきたというのも、すごくいい。
アダムとイヴがあれだけオンリー・ラヴァーズの閉じた甘美な世界にいられたのは、血液の供給源が確保されていたからである。迷惑なエヴァの出現によって、彼女のしでかした事件のために(イヴが「よりによって音楽業界の男なんて!」と毒づくのには大いに笑ったが)ついには自分たちで血液を求めて、この21世紀のタンジールの夜の街をさまよい歩かねばならなくなった。この時、私は“恋人たちのジレンマ”というものを思った。二人だけの世界を守るために他をぜんぶ遮断してそこだけで生きようとしても、実際はお金がなければ、働かなければ食べてはいけない。二人だけで片時も離れず、したいことだけしていたいのに、お腹が空くから生きるためには、したくないこともしなければならない、そのジレンマ…。
これと同じことが現代を生き抜く吸血鬼のアダムとイヴに起こっているのに気づいて、可笑しかった。もはや一滴の血液もなくなったあの時、はじめてアダムもイヴも自分たち以外の、外の野蛮な世界へ、しぶしぶ働きに出ていったのだと思う。
そこまで追い詰められなければ、彼らは永遠にいつまでも自分たちだけのオンリー・ラヴァーズな世界にツンとすましてどっぷりと浸かっている。その徹底ぶりに、これぞ正真正銘のラヴァーズの在り方だと、惚れ惚れするのだ。



※またしても映画のハシゴだったんですが、『永遠の0』を先に見て、不覚にも涙してしまったために、『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』は大好きな世界のはずなのに、ちょっと眠気が襲ってきて、セリフを聞き逃したところもありました。マーロウ(キット)が「どうして二人は一緒に住まないのか」とイヴに質問したシーンがあったと思うんですが、その時イヴは何と答えたのかと気になっています。一緒に行った夫も聞き漏らしていてわかりません。どなたか知っている方がいたら、教えて下さい。
映画の後は夫の部屋で過ごしたのですが、疲れて昼寝をしている傍らで私は読書をして、夜は音楽にCorinne Bailey Raeの気怠い声を聞きながら、ストーブに鍋を乗せてそまつなキムチ鍋をつつきましたが、どちらも自由で自堕落で、「お父さん」「お母さん」の役どころを外してみれば、実にラヴァーズ的な気分が戻って満足でした。
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by zuzumiya | 2014-01-08 22:53 | わたしのお気に入り | Trackback | Comments(0)
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