暮らしのまなざし

48歳の誕生日に

23年夫婦をやってきて、私はどことなく愛というものを自分でわかったような気でいました。でも昨日(昨日は私の48回目の誕生日でもあったのですが)、それは違うんだと思い知りました。
以前のブログで書いたことがありますが、夕飯のおかずのポテトサラダを作るために、アツアツのじゃがいもを必死になってつぶしていた時のことを詩のような短い文章にしました。今それを書いていた頃のiBookが壊れてしまって、あの時の文章をそのままここへ載せることができないのですが、あの時ふと、「愛ってこういうことじゃないか」と確かな強さでわかった気がしたのです。
あのじゃがいもの入っているボールを懸命に押さえている手の力とか、「早くしなくっちゃ」と焦る気持ち、つぶしながら「おいしく、おいしく」とひたすら念じるあの気持ち、それらささいなことのすべてが、その繰り返しが愛なんだと感じて、光が走ったように「わかった」気がして、なぜだか無性に安心してうれしかったのを憶えています。
今、私たち夫婦は数日後には引越して出て行く夫の荷造りで忙しい日々を送っています。
昨日もそうでした。まるで単身赴任する夫の荷物をまとめるかのように、妻として私はあれこれと夫の世話を焼き、甲斐甲斐しく働きました。
思えば、私たちは引越貧乏でした。夫は何と今回で13回目の引越しになるそうです。
几帳面な夫はその度に家電やらAV機器の空き箱を捨てずにタンスや食器棚の上に取っておくので、母からは裏で“箱男”と嗤われていました。
「ああやって箱を捨てずに取っておくから、また引っ越すことになるじゃない?」
などと軽く冗談を飛ばして笑いながら、それでも「その箱はこっちに入れるべきよ」とちゃんとアドバイスもして、だんだん引越しの手順やら勘所を思い出してきて、二人はにこやかに、てきぱきと、いつも以上に協力しあって、淡々と荷造りをこなしていました。
いちばん、キツイなぁと思ったのは、ひょいと出てくる家族写真や手紙の類でした。
手紙は開く前に「読むぞ」という心構えができるのですが、重なった書類の間からかさりと落ちてくる写真は心構えをする暇もなく見つけてしまうので、防ぎようもありません。写真というのは、残しておきたい最高の瞬間を撮っておくもの。その威力たるやもの凄いです。
「ああ、こんな頃もあったのに…」
「あの頃はこんな日が来るなんて思いもしなかったなぁ」
とひどく感傷的な気分になってしまい、手が止まって、鼻の奥がつーんとしてきます。
喧嘩しいしい、それでも何とか頑張って積み上げてきた家族の歴史を、今私が壊しているんだなと、懐かしさと愛おしさで震える胸で、今ひとたび、しんしんとそう思いました。
夫は思い出を大事にする人です。学生時代のノートの走り書きからスケッチブックまで、何でも取っておきます。「あとで笑えるから」というのが理由なのですが、彼は子供たちの小さい頃のビデオ(彼が全部ナンバリングして整理したもの)を今回すべて持っていくことにしました。働いて帰ってきて眠るだけの新居で、それらを一本ずつ見直すような時間はおそらくないでしょう。
彼はただ、それらの思い出を持って、それらの温もりに護られて、一緒にこの家を出ていきたいのだと私は思っています。
今の私たち夫婦は子供たちも含めて、私の好きな永井龍男さんの小説『青梅雨』に出てくる家族のように感じます。みなで自害して明日には死ぬというのに「お風呂が沸いたから早く入って」とやさしく声を掛け合う家族たち…。
別れという最後がすぐそこに見えているから、口をついて出てくる思いやりのある言葉やジョーク、ひとつの強い感情に流されまいとする抑えた振る舞い、温かなまなざし、やわらかな微笑。このお互いへの素直なやさしさの発露があれば…という後悔にも似た瞬間を不思議に最近、幾度も感じています。
すぐ先に別れがあるから、それがお互いにわかっているからこそ澄んでいようとする心、穏やかで温かく終わりを迎えようとする気遣い。これはある意味で非常にプラトニックな愛がこの終いにきて私たち夫婦の間に芽生えているようにも思えるのです。
そういうふうに、最後の最後になっても愛の姿がまだ変われるんだということに気がついて、ひとり静かに感動しました。とはいえ、すべての事は順調に運んで、遅かりしこと。でも、勇気を持って決断してここまできたからこそ、わかり得た真実なのです。
「愛というのは形を変えていくものよ」といえば、どこか芝居の陳腐なセリフのように響いて、思わず「フン、知ってるさ」と言いたくなりますが、それは単なる知ったかぶりで、実は私は何も知らなかったんだと今、白状します。
知らなかったということを知ること。夫は占いのとおり、最後の最後まで“教師”の役割を果たしてくれたのかもしれません。
昨日は家族でケーキを囲んだ最後の誕生日でもあり、誤解されそうでうまく説明できない涙もひとしきり流しましたが、でも、ここからまた人生を歩きながら少しずつ学んでいくしかないと、今は思っています。
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by zuzumiya | 2013-10-20 15:43 | 日々のいろいろ | Trackback | Comments(0)
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