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『母性』を読んでいろいろ考えた

湊かなえの『母性』を読んだ。「これが書けたら作家をやめてもいい」という作者の意気込みの凄さが何よりの宣伝になって評判を呼んでいる。
私は作品の良さというのは小説のお話そのものの出来というより、読後、読者が日常に戻ったなかで、どれだけいろいろ考えられるかだと思っている。その意味では、いいきっかけを貰えた本だった。
話の中で、女には二種類あって、それは「母」と「娘」であると説明する登場人物のセリフの中にこんなのがある。

<「子どもを産んだ女が全員、母親になれるわけではありません。母性なんて、女なら誰にでも備わっているものじゃないし、備わってなくても、子どもは産めるんです。子どもが生まれてからしばらくして、母性が芽生える人もいるはずです。逆に、母性を持ち合わせているにもかかわらず、誰かの娘でいたい、庇護されたる立場でありたい、と強く願うことにより、無意識のうちに内なる母性を排除してしまう女性もいるんです」>

子どもを産んだことのある私の経験から言えば、女性はこのようにきっちりと二分化されるものではないと思う。ひとりの女性のなかには「子どもをこれからしっかりと守り育んでいかなければ」という「母」としての強い自覚と共に、「子どもを産むという命がけの大業を成し遂げたのだから、もっといたわってもらいたい、感謝してもらいたい」「かよわき子どもを抱える私だからこそ、誰かに守ってもらいたい」といった、甘えを含んだ受身の「娘」の心情も存在している。
初めての子どもを産んで、睡眠不足で朦朧とした頭で、どうにも泣きやまない我が子を抱いて部屋中をうろつき、不安と疲れと無力感で泣きたくなるくらいいっぱいいっぱいになっている孤独な若い母親を想像してみれば、それがよく分かるだろう。
たしかに「母性」というのは、男性が信じているような頑丈さではじめから存在するものではない。
本来、女性の中の「母性」は、それこそ生まれたての子どものように敏感で危うい“かそけきもの”で、子どもと同じように、そこから慈しんで育んでいくものなのだと思う。「母になっていく」という現在進行形の言い方がいちばん適切で、育児のテクニックも母としての心持ちの問題もすべて、子どもと接して試行錯誤することで子ども自身から教えられ、だんだんに育児の勘所が分かって、「母」としての自信に跳ね返っていくものだと思う。
そういう“かそけき母性”を育むのは、母親本人だけではないのだ。父親である夫こそ、実は重要なキーパーソンである。子を産んだ女性のなかには「母」と「娘」の両方の心理が危うくゆらゆらとバランスを変えながら同居しているのだから、夫のできることはその庇護されたい、守られたいと願う「娘」の心の方をまず満足させてやることだと思う。
「父性」とは社会のルールやマナーを教える「しつけ」のことだという。子どもにとってそれが必要になるのは集団生活に入ろうとする頃で、もっとずっと先のこと。私が思うに「父性」はその頃までとっておき、まずはよき夫であろうとすること、いわば「夫性」として、妻へ力を注ぐべきだ。命をかけて夫の子どもを産んで、日夜、懸命に育てているのに泣き言ひとつで「母親なんだから頼むよ、しっかりしてくれよ」なんて言葉で突き放されたら、女はあの凄まじい出産の痛みにひとりで耐えた自分がバカらしく思えて、夫の顔に似た子どもに愛情を覚えなくなるかもしれない。育つ「母性」も育たなくなる。
世の夫族には「妻を母にしていくんだ」くらいの心意気で子育てに向かってほしいと思う。「父性」はまず「夫性」からと憶えてほしい。
そして、もうひとつ。子どもの数が少なくなって、ひとりっ子に親が関わる機会が多くなると干渉することも増えて、「しつけ」や「教育」を何より優先する母親も多くなる。最近は「父性的な母親」「父性的な家庭」が多くなっている気がするのは、女性の社会進出が当たり前になって、意識が男性的になっていることと関係しているのかもしれない。
女性の「母性」のその根っこは、やはりやさしく包み込むような「女性性」のような気がする。激しい闘争心とか、競争して相手を蹴落として上に行くとか、そういう猛々しい男性的な“切った切られた”の世界で女性性をすり減らしてしまうと、やがて必要になる「母性」の泉が枯れてしまうかもしれない。男性社会で生きるために勝つために、まず手放してしまいがちな「女性らしさ」「女性としてのよさ、価値」をもう一度豊かなものとして見直すべきだと思う。
我々女性は受け入れ、慈しみ、育む性だということを誇りに思いたい。
なんて、ずいぶん湊さんの『母性』のお話からは逸れているんだが、つらつらと考えた。
by zuzumiya | 2013-06-13 22:28 | 日々のいろいろ | Comments(0)
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