『ロスト・ケア』~私はうまく死ねるのだろうか~

a0158124_1843855.jpg単なるパートの、たかが食事介助とはいえ、特別養護老人ホームの中に入って、その日常を現実として働きながら実感しているので、介護まわりの本もぽつぽつ手に取るようになった。最近ではミステリーの新人賞を受賞して話題になった葉真中顕さんの『ロスト・ケア』が非常に面白かった。ロストをきっかけに本岡類さんの『介護現場は、なぜ辛いのか 特養老人ホームの終わらない日常』も読んだし、今はNHKスペシャル取材班&佐々木とく子さんの『「愛」なき国 介護の人材が逃げていく』も読んでいる。
『ロスト・ケア』を読み終わった時は、その内容ゆえにほんとうに落ち込んだ。
さらに読後、翌朝の新聞の一面で、家庭介護での虐待の実態が報じられていて、どうやら虐待の主は息子が多いらしいとわかって、出来のいい息子に何かと期待を寄せている私はなおさら落ち込んだ。特養に勤めていることも相まって、それからは自分の老後のことが心配で心配で、毎年の賀状だけで連絡をさほど取りあってもいないベテラン介護士の知人に思わず愚痴のメールを長々と書いて送ってしまったほどだった。
心配でと書いたが、何が心配かといえば、自分が「うまく死ねるか」ということである。
今後も老人はどんどん増えていく。そしてそれを支える人間は子供が生まれないからどんどん減っていく。老人だけが増えて、誰が面倒を見るのか。老老介護は私たちの時代はもはや当たりまえになるだろう。便利で安全で金属疲労を起こさない介護ロボットが格安で家庭にまで進出してこないかぎり、老老介護の人間対人間の悲惨な事件は増える一方だろう。お金のある老人はお金にものを言わせて高級ホテルなみの有料老人ホームに入り、給料も格段にいい介護士に手厚い介護を受けられる。だが、今の40代だって非正規社員で食いつないできたような人はいっぱいいて、さほどの蓄えはなく老人になり、おそらくは結婚だってできないできただろうから、おひとりさまの自己責任の老後になる。貧しい老人は今でさえうん百人待ちの特養だって入れない。老人の格差は今でも問題になっているが、これからも続く。もっと悲惨になる。高齢者の浮浪者は増え、孤独死も自殺も増えるだろう。
家庭介護に至っては虐待は当たりまえ。中でもきっと放置プレイの“ネグレクト”が増えていくような気がする。認知症の親を怒って瞬間的に手をあげる、というのは良心の呵責や後悔の念も酷いだろうから、「見ないようにする」「聞こえないようにする」「鍵をかけて外出する」「柱に縛って外出する」というネグレクトの“逃げる”手段が増えると思う。とすると、餓死が死因で増えてくるかもしれない。若い頃は「覚悟ができればすぐに死ねるさ」と軽く考えていた。でも、年をとるとそんな非現実的なことは思わなくなる。「なんだかんだ言って、死ぬに死ねないんだろうなあ」と思うようになる。すなわち、「金のない貧しい私たちの老後は、面倒みる家族も含めて、みんなが“生き地獄”になるのか」と結論づく。
運良く施設に入れても、スタッフの人員不足や低賃金での長時間にわたる重労働で介護士が慢性的にイラついた現場では、じゅうぶんな介護は受けられないだろう。施設でもきっと身体に傷をつけ痕が残るような虐待より、無視や放置のような“知らんぷり”のネグレクトが増えるだろう。介助が遅れて冷たい食事をスプーンで口をこじ開けて入れられて、スタッフの休憩時間が終わらないと順次トイレにも行けない、糞尿にまみれたおむつでもはやお尻は真っ赤か。汚いシーツはそのまま見て見ぬふり。ごくたまに家族が面会にきて「ここのスタッフはひどいのよ」と訴えても「家じゃ誰も面倒みられないし、集団生活なんだからちょっとぐらい我慢しなさい」と諭され、「会話が成り立たない」とものの10分もしないで、役目を果たしたような顔をしてそそくさと帰っていく。そんな老後がこの先待っているとしたら、誰だってそこまでいかずにポックリと早く死にたいと思うはず。『ロスト・ケア』以降、自分の将来に対して、考えれば考えるほど、悲観的になっている。夢は何かと聞かれたら、「うまい時期にうまく死にたいです」と答えてしまいそうだ。
「明日は我が身と思って心を寄せて介助したい」と面接で言って見事受かったが、今は「あれが明日の我が身か…」と恐怖に震えている。生きることが怖くなっている。
世界的な長寿国というと、何だか安心安全のおめでたいようなムードが漂うが、福祉国家と必ずしもイコールではない。今のままでは、死ぬに死ねずに“生き地獄”を長く味わう国にすぎないということ、怖いけど、ちゃんと知っておいた方がいいのではないか。
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by zuzumiya | 2013-04-11 18:08 | わたしのお気に入り | Trackback(1) | Comments(2)
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Tracked from 笑う社会人の生活 at 2016-04-08 01:18
タイトル : 介護のための殺人
小説「ロスト・ケア」を読みました。 著者は 葉真中 顕 43人もの要介護老人が3年以上にわたり、ひっそりと、ゆっくりと殺されていた 犯人の目的は何なのか・・・ ミステリとしてよりか、介護 福祉現場の現状が大きく書かれていて 社会派な部分を感じられますね もちろ...... more
Commented by takae at 2013-04-14 15:14 x
はじめまして。
これまでずっとzuzumiyaさんのブログを拝見させて頂いてました。きっかけはエレカシです。
でも、今回はコメントせずにはいられませんでした。
私は、現在働きながら認知症の母親の介護を自宅でしております。45歳で、独身で、自分の人生も考えなくてはならず、仕事と介護の日々に、正直息詰まることも多く、ネグレストになりかけていました。
今日、記事を読んで、改めて自分の母に対する介護について考えさせられました。これを機に、また新たな気持ちで母の介護にあたっていこうと思います。ありがとうございました。
Commented by zuzumiya at 2013-04-17 15:31
はじめまして。今まで読んでくださってありがとうございます。私の手違いで返信が非公開になっておりました。すみませんでした。働きながら認知症のお母様をご自宅で介護なさっているとのこと。特養で働いていて、認知症介護の現場のほんの一部を見聞きしているだけですが、どれだけ大変なことか、少しは想像できます。それゆえ、「わかります」や「頑張ってください」と簡単には書けません。私にはまだ経験のないことなので、正直言えば何と書いたらあなたの心に寄り添えるのかもわかりません。苦労のさなかにいるあなたに、ただひとつ「健やかなれ」と願うばかりです。お金を払って、朝から晩まで介護をプロという他人に任しても、子供だからと自分自身ですべてをやっても、親子は親子。かわりはないのだなあ、と思うと少し複雑です。


ふだんの暮らしに息づいているたいせつなもの、見つめてみませんか?


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