すべてのものは足りている

朝、トイレに座って、何げに棚を見上げた。トイレットロールの残り数が少なくなっている。洗面所に立って、洗面台の棚が目に入る。歯磨き粉のチューブが痩せてきた。冷蔵庫を開けた。逆さに立っているマヨネーズが残り4分の1を切っている。
あれも足りない、これも足りない。買っておくか、買っておいた方がよさそうだ。
主婦というのは、家中の足りないものを始終探しまわって見つけ出すのが仕事なのだと、今朝、はたと気づいた。家族みんなが気持ちよく安心した暮らしを送れるように、足りないものをなくす。先んじてそういう気配りができる主婦は主婦の鏡である。
毎日のことだから、そんな“足りないもの探し”は主婦の職業病となって、癖になる。
癖になれば、性分になる。足りないことはとにかく見過ごせない。足りないなら、さっさと補充して何不自由なく満たされて安心したい。持っておく、揃えておく。それは“余剰”ではなく“堅実な備え”と言う。
やがて“足りない”は物に対してだけでおさまらず、人にも及ぶ。子供の成績が足りない。夫のやさしさが足りない。姑からの感謝の言葉が足りない。自分自身にだって、人生そのものにだって、刺激も華も、とにかく何かが足りない!世の中の主婦の欲求不満の源は、案外、家の中のこの“足りないもの探し”だったりするのかもしれない。
すると突然、仙人のような爺さんの顔が浮かんだ。
「足るを知れ~。今あるその状態で何が悪いのじゃ。“足りている”を心に留めて生きてみなはれ~」
中国の老子爺さんである。微笑みながら杖で主婦の鏡をバリバリ割っている。
“足りている”を念頭に今一度、家の中を見回してみれば、トイレットロールはまだあと半月はもつ、と思われた。歯磨きのチューブも、探したら同じように中途半端に使いかけのが出てきた。マヨネーズにこだわらなくてもドレッシングだってあるじゃないか、と思えた。そして最後に、食卓に座っている寝起きで髪が総立ちしている夫の顔が目に入った。
「足るを知れ~」再び爺さんの声がこだました。
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by zuzumiya | 2013-03-26 22:57 | 日々のいろいろ | Trackback | Comments(0)
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