夕日の自転車

年をとると、何でもないものにふと心を奪われて、しみじみと感慨にふけってしまう。
ある日の私は、職場の駐輪場に止まっていた荷台に幼児用シートをつけた自転車にやられてしまった。
夕日を背に前輪をこちらに倒して首をちょっと傾げたような格好で、ひっそりと慎ましやかに止まっている姿を見て、何だか妙にじーんときてしまったのだ。
「ああ、こんな小さな子供がいる人がここで一緒に働いてるんだ」
ふだん目にしていたはずの自転車なのに、そのとき急にそんなことを思った。
「子供はやっぱり保育園に預けてるのかな」
「この前みたいに風の強い日は自転車の送り迎えはさぞかし大変だったろうな」
「介護は肉体労働なのに、家に帰ってからも休みなく働かなきゃならないんだろうな」
「一人でそんなに頑張って、ほんとはさみしい想いをしてるんじゃないかな」
「ダンナさんは話のわかる、手伝ってくれるやさしい人だといいな」
「ツライけど子供はすぐに大きくなるから、このくらいの時がいちばん可愛いよな」
「この自転車で何気ない親子の思い出をいっぱい作ってるんだろうな」
などと考えていたら、幼い息子や娘の笑う顔が立ち現れて、
「あれからずいぶん時が経ってしまったなぁ、もう戻れないんだよなぁ」と思ったら、なんだか胸がきゅうんとして、寂しいような、でも幸せなような、甘く切ない気持ちになった。
胸のなかに夕日がじんわり溶けてきたみたいだった。
「がんばれよ」
歩き出しながら、心のなかで自転車にそっとつぶやいた。
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by zuzumiya | 2013-03-20 22:36 | 日々のいろいろ | Trackback | Comments(0)
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