春のおでん

春は三寒四温と言われてきたけど、今年は降り注ぐ“煙霧”のせいで気温は1日ごとに10度近くも変わっている。せっかくの休みだが、今日になって2ヶ月も逆戻りした寒さとあっては家でストーブにあたりながら読書でもするしかない。夕飯のメニューも温かい鍋物にかえて、季節を逆戻りする必要がありそうだ。
やれやれ。たしか昔読んだ川上弘美さんのエッセイに“春のおでん”というタイトルがあった。
実はそのタイトルに強く惹かれて、内容は「友人とこれから春のおでんを食べに行く」というところしか憶えていないのだけど、うららかなある春の昼下がり、陽光に包まれて箸に挟まれた白い“ちくわぶ”から細い湯気が立ちのぼっていたりする映像が浮かんで、「川上さんののほほんとした文体やほんわかした外見のイメージにぴったりだなあ」「最高傑作のタイトルだなあ」と思っていた。
春におでんを食べる。それもなんとなく語感から昼間に食べちゃう気がしている。もちろん、お酒も昼酒である。花見であってもなくてもいい。ひらけた野っぱらが見えて、できれば遠くないところに川もたゆたゆと流れていてほしい。そうするとやっぱり屋台だろうか。薄いピンクの地に白抜きの文字で“春のおでん”が、特に最後のおでんの「ん」がいくぶん弾んで書かれた幟がゆらりとはためいている。鳥の声やら子供らの声も遠く聞こえてくる。“こんにゃく”なんぞ、冬のこんにゃくよりずっと力んでなくて伸びやかだ。白こんにゃくなんかもあってくれる。“はんぺん”は波間に浮かぶ泡のかたまりのよう。川上さんの小説ならさしずめ、先のことがわからないフリンの男性と食べているのかな。これから何処へ行くとも何をするとも話さずに、ただゆるい風に吹かれてふたり春のおでんを食べている。なーんてね。
でも、こんなふうに一挙に想像してみると、“春のおでん”はのほほんとしているけれど、かすかに独特の哀感というか淡い寂しさもあって、それは何かで知っているぞと思って調べてみたら、俳句の春の季語「春愁」だった。“春のおでん”は句も詠む川上さんだからこそ、その含みもわかってつけることができたタイトルだったのかな、と思う。
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by zuzumiya | 2013-03-14 16:06 | 日々のいろいろ | Trackback | Comments(0)
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