沢庵の恋

向田邦子が端っこ好きなのを覚えている。
座る席も端っこ、海苔巻きも端っこの部分が好き。何かのエッセイで読んだ。
海苔巻きの端っこ…。あの甘辛く醤油で煮しめた干瓢やきゅうりの先がひょろりと飛び出した海苔巻きの端。皿には並べられない、切り落とされる不揃いの両端。
そこがたまらなく好きだなんて、小物使いの上手な脚本家らしいシズルのある文章だが、ふと、いつからだろうと思った。
子供の頃? 台所で酢めしを扇いだり、母親の手伝いをしたかわりに、切り落とされた端っこをもらって食べたのがきっかけだったっけ? それとも、料理好きで、振る舞い好きだった彼女がお客に出す前に味見のつもりでひょいと口に入れる、そんな習慣からだっけ? エッセイにはきちんと書いてあったように思うが、どっちだったか忘れてしまったな。などど、考えながら台所で沢庵を切っている。
沢庵は夫の好きな漬物のひとつ。ざくり、ざくり、ざくり。ぷーんと甘じょっぱい匂いが立ち上り、歯の間から唾液が滲み出る。祖母の漬けた沢庵で育った私も、いつの間にか売り物の沢庵の黄色を毒々しいとも思わなくなった。尻のすぼまった小さな端っこを切り落とす。ととんと駆けて、PCに向かっている夫のもとへ行く。一つは既に私の口に入っている。「あいよ」と言うなり、いつものように夫の口が開く。
ごり、ごり。「うん」「うん」互いに目を合わせて頷いて終わりである。合格というお墨付きをもらって、私は鼻歌を歌いながら、食器棚に器を出しに行く。
向田邦子が生きていたら、こんな夫婦の日常を可愛いと思ってくれたかな、と笑いながら。
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by zuzumiya | 2012-09-04 16:57 | 日々のいろいろ | Trackback | Comments(0)
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