「BOSS」に見る愛すべき「いい人」

缶コーヒーのBOSSのCMが好きだ。
宇宙人ジョーンズもすばらしい企画だったが、今私のお気に入りは、あの大森南朋の出ている「贅沢していい人」のシリーズ。
最初に見たのはたしか、スカイツリーをバックに写真を撮ってほしいと頼まれた「いい人」大森さんがツリーをフレームに入れてやろうとして懸命になり、道路に這い蹲ってしまうバージョン。最新作は、会議室でロの字の机を直しに率先して中に入ったものの、机の脚にストッパーがかかっていてまごまごしているうちに、反対側からすーっと若手の男性社員に机を押されて、真ん中にはさまっちゃうやつ。
机の脚にストッパーがかかっていようが力任せで引っ張っていくところや、机から頭を打ちながら出てくる細かな演出も、ほんとに後先考えずに「よかれと思って」動いちゃう「いい人」っぽさが出ていていい。
でも、この一連のCMで何より素晴らしいと思うのは、そんな「いい人」を遠くから見つめる少女の目があること。これはこの企画の命なんだろうと思う。
この少女、別に「いい人」の大森さんに好意的というわけではない。ただ何というか、いつでもなぜだか居合わせて目撃してしまうという体をとっている。
そういう「いい人」にヘンに同調しない、媚びない、ベタな感じのないところも自然で好きだし、そうだからこそ、このCMの「いい人」っぽさが逆に視聴者に「残る」効果をもたらしていると思う。
この少女を入れるか入れないか、企画は入れなくても通るだろう。演出も想像できる。
でも、私も企画会議に参加していたら、この少女はやっぱりいれるべき存在だと主張していただろう。
だって「いい人」っていうのはやっぱりどこかで報われないと、と思うからである。
誰かが「いい人」の頑張る「いいっぶり」を一部始終見ていてあげないといけない、と思うのだ。その行動を褒め称えなくてもいい、笑って癒してくれなくてもいい、ただ見ていてはやってほしい、私はそんなふうにまで思う。そう思うから、このCMに少女を登場させたプランナーの心の内をとてもうれしく思う。このプランナーの人間性まで想像できる。

いつだったか、もうだいぶ前だが、曽野綾子さんが(今でも大ベストセラーを出し続けているが)「いい人をやめるとラクになる」というようなタイトルの本を書き、それに同調するように自己啓発の関連本がこぞって「いい人になんかならないでいい」と主張しだし、ちょっとした「いい人やめブーム」が起こったように思う。あの頃からみんな「いい人になる」「いい人を目指す」のを馬鹿らしい、「いい人やっても疲れるだけ」と思うようになった。その挙げ句に、自分さえよければもう他人なんていいじゃん、と閉じだしたように思う。曽野さんはそんなつもりはなかったのかもしれないが、題名だけ読めば、たしかにそんなふうにも解釈できる。

「いい人」のCMを意識したわけでもないが、仕事をしていても、最近どことなく冷ややかさを感じることが多い。仕事にボランティア精神をとまでは言わないが、ちょっとだけ無理をする、時間やお金の計算をこえたところでちょっと頑張って仕事をする、そのほうがお客さんが喜ぶから、っていうようなことを最近の若い子はしなくなった。すごくドライなのだ。
最近の職場であったことだが、新人や異動で出ていく人がいても、誰も先に立って飲み会などの歓送迎会の音頭をとらない。45歳の館長が46歳の私に同じ昭和のノリで、「『熱烈歓迎!○○○○子さん、××××子さん』と垂れ幕を書いてよ」と頼んできたが、業務時間内は忙しかったので私は家に帰ってパソコンで作った。それを館長が回転椅子に乗って、下で私が押さえてるようなオジサンとオバサンのノリで貼りだしてみると、若いチーフは「熱烈歓迎ってなんか中国みたい」とシラーっと言う。45歳の館長も46歳のオバサン職員の私も、こうしてやれば「新人が喜ぶだろう」「いい職場にきたと安心するだろう」との「よかれと思って」の想いでやったまでだが、今の若い子たちには「ちょっとウザイ」と感じるものなのかもしれない。
みんなどことなく冷めていて、どことなく「情」が薄い気がする。
もちろん、歓送迎会の飲み会も誰も率先してやらない。私が家に持ち帰ってパソコンでお知らせを作り、貼りだしてもいつまでたっても誰も名前を書かない。みんな面倒なのだ。
歓送迎の気持ちがないわけでもないのだろうが、ただただ面倒なのだ。
私のことを目上の人と立てて、仕事ぶりにも一目置いてくれている男の子がいちばん最初に名前を書いてくれて、その後ぽつぽつ名前が書かれるようになった。
昔だったら、歓送迎会のお題目の飲み会なら、強制参加で全員出席が常識だったはず。だって、世話になった人に「ありがとう」と感謝して送ったり、新人を「よく来てくれた、よろしくね」と歓迎するのは大人の常識、社会の常識ってやつだろう。それを「少人数ならいいんだけど、みんなで飲むのはどうも…」なんて、ヘリクツこねるのはガキのすることだ。
私はいまの職場は企画を自由にやらせてくれるので好きだが、人間関係はどうだろうと思っている。表面上は仲良く(大人だから)やってるが、歓送迎会に誰も音頭をとらない、色紙もプレゼントも贈る声がいまだに出ないというのは、どうなんだ?
私がやらなければ、果たしてぎりぎりで誰かが名乗り出てやってくれていただろうか、疑わしい。もし自分が辞めることになって、誰も何も動いてくれないとしたら、とても悲しいと思うはず。今の若い子はそういうのはどうでもよくて、そういう想像ははなっからできないんだろうか。

会社や社会から「よかれと思って」という、ちょっとはみ出るくらいの余分な「情」がなくなっているような気がする。誰かに誉められるからじゃなくて、「そういうもんだろう」「それが人ってもんじゃないの?」とまず放っておけない、体がこころが動いちゃう、そういう「いい人」がやっぱりいなくなっちゃいけないと思う。
人はみんな「いい人」を目指さずしてどう生きろというんだろう。私は堂々と「いい人」になりたい、「いい人」を目指したいと言う。大森南朋のようにちょっとドジでもダサくてもウザくても、「よかれと思って」動ける人になりたい。そして、必ず誰かが見ていてくれる、そう、人じゃなくていい、天の目がちゃんと見ていてくれていると信じたい。
きっとあのCMのプランナーは愛すべき「いい人」を描いて、エールを送ってくれているんだ。
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by zuzumiya | 2012-02-20 23:20 | 日々のいろいろ | Trackback | Comments(3)
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Commented by どこにでも居る30男 at 2012-02-26 18:23 x
たまに拝読させていただいております。
コメントさせていただくのは初めてです。

このエントリを読んで、世相とか所属集団の決まりごとだからとか、
そういうものの「せい」だと思ってしまうことがいけないのですよね。
でも、「いい人」をやめると確かに楽にはなります。
忘れてはいけないのは、そのことで払わされる対価もあるので、
それを自分できちんと処理できることも必要にはなりますね。

若い人たちが動かないのは、年長者の指導力不足もあると思います。
かつて強制参加の歓送迎会も、そういうものが必要とされていたから
なのでしょう。
本当は何が必要なのかをきちんと吟味しないまま、目先のことにとらわれて
おざなりにしてしまうことは、よくあるものです。
何かを感じている若い人たちも居ると好意的に見ていきたいですね。

今いちばん大変なのは、自己保身だけに熱を上げる年長者と
ドライな若者の間に挟まれた世代なのかもしれないですよ。
確かに、当たり前にやるべきことをやっているだけで疲れてしまうような時代ではあります。
Commented by zuzumiya at 2012-03-01 13:02
はじめまして。しょうのです。コメントもらっておきながら、遅くなりすみませんでした。あらためて、ありがとうございます。
そうですね。「今いちばん大変なのは…」のくだり、もの凄くわかります。でも、自分の子供の話もそうなのですが、若い子に説いてみてもわからないんですよね。ひとっとびにはわからない。自分も若い頃はそうだったし…。結局、人間は順に年をとって、年をとっていくその過程でわかっていくしかないんだなと思ったりします。
だとしたら、よい方に考えれば、人生にはいつも「希望」がありますよね。50代には50代の、60代には60代の「わかること」が待っている。なんてね。またよろしくお願いします。
Commented by どこにでも居る30男 at 2012-03-02 21:00 x
しょうのさん、コメントレスありがとうございます。

きっと相手が子供であったとしても、親から褒められてして嬉しかったことなどは覚えていて、自分がされて嬉しかったことを自分も誰かにしてあげたいと思ってくくれば、「いい人」に近づけるのかもしれません。
でも、本当に「いい人」というのは自然と動けるところが凄いのでしょうし、見ているほうとしてはちょっとした悲しみもともないますかね。

「いい人」には、見ている人が必要だというのは、なるほどな…と思いました。

前回、言い忘れてしまいましたが、作家のお名前は曽「野」綾子さんだと思います。
私は若いころ、この方の「太郎物語」を読んだことが印象に残っています。


ふだんの暮らしに息づいているたいせつなもの、見つめてみませんか?


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