最近の読書から…

図書館でたまたま見つけて、遅ればせながらベストセラーの香山リカの『しがみつかない生き方』を読んでいる。心のどこかで「何かにしがみつきたがってる自分」を感じていたのかもしれない。つい、手に取ってしまった。
読んでみると精神科医の著者らしく、今を生きる老若男女の心の傾向と分析が丁寧にされており、大いに頷ける箇所がたくさんあった。特に最近、職場の若者のツンデレ的な言動や彼らから醸し出される独特の緊張感のことで「なんだかなあ」と思っていたので、「ああ、そういうことだったか」と合点が行く箇所もあり面白く読んでいる。


「最近では、就職活動中の学生の自己PR文を集め、その優劣を競う「自己PRコンテスト」なるサイトまである。そこには、「私は『滝を登る鯉』です。常に挑戦し、自分を高める姿勢を忘れません」「私は地域密着型ポータルサイトを立ち上げて、市内の主要大学やスポンサー等の関連企業に営業をかけ、最終的に月間二十万PVのアクセスと年間六〇〇万円の収益を生むサイトに成長させました」などと、これでもかというほどの自己肯定、自画自賛の言葉が「優秀作品」として並んでいる。(中略)自分のしていることを過剰なまでにアピールして臆することのない人が増えたのは、日本人の性格が厚かましくなったからというよりも、自由競争社会における自己防衛と言うこともできるのではないか。しかし、こうして若者たちがどんどん”自慢競争”に走り、採用を勝ち取って行く先には、いったい何が待っているのだろう。三年で辞める若者。社内いじめ。急増する二十代、三十代のうつ病と長期休職。過労自殺と労災申請の増加などなど、若者と企業との関係は、かなり悪化していると言わざるをえない。」
                   (第2章「自慢・自己PRをしない」より)


「やはり大きく社会の流れを変えたのは、世界的には2001年9月の同時多発テロであり、日本国内では同年4月の小泉純一郎首相時代の始まりだろう。この二つの問題が日本社会にどういう影響を与えたかについては(中略)あえてひとことで言うとすれば、「人間の狭量化が進んだ」となるのではないか。いつ自分がテロの犠牲者になるかわからない。少しでも自分と違う人は排除しておくに越したことはない。また競争社会になる中で、ちょっとでも弱い人や自分と違う人のために立ち止まっていては、自分が蹴落とされて"負け組”になってしまう可能性がある。だから、なるべく他者のことなど考えずに自分の安心、安全、進歩や成長のことだけ考えて生きるしかない…。(中略)自分とは少しでも違う行動をする人たちの心を想像し、理解することができなくなっているのではないか。(中略)ある瞬間で時間を凍結し、人々に「あいつも負け」「こっちは危険」と"負けシール"を貼っていく。そんなゲームが活発になっている印象だ。「タトゥーを取りたい? 後先考えずにそんなバカなことをするからだよ」と嘲笑する人たちも,その時点で「その人たちは愚かな敗北者」と決めつけ、同時に「私は違うから勝ち残り組」と認識することで、かりそめの安堵感を覚えているだけなのかもしれない。」
                   (第3章「すぐに白黒つけない」より)


この引用した二つの文章を読むだけでも、今の若者の、他人とやたらに自分を比べたがる、そしてすぐに人間関係を"競争関係"に仕立てて、瞬間的に優劣の白黒をつけたがる性急で狭量な傾向が見えてくる。誰かと比べて自分の優位さを少しでも探して周りにアピールしておきたいという躁的ポジティブさと同時に、ちょっとでも他人と比べて劣ったところがあると気づいたら直ちに萎えてノイローゼのように落ち込んでしまう鬱的繊細さもある。その二つが同じ若者の中に同居している気がする。別に誰と比べなくても悠々と平気でそのままでいられる自分というのは社会に出たらめったには出せない。「まあいいや、私は私で行くから」のちょっと引いたものの見方や肩の力を抜いたマイペースさはすでに周囲に対して戦線離脱の意思表示になってしまう。いつの頃からそんなことになったんだろう。たぶん「空気を読めない」という言葉が流行り出した頃からだろうか。周りに合わせて流れに乗って生きられない人はダメという烙印を押される風潮になって、他者との関係を過剰に意識しだして、その過敏さに疲弊して出て来た結果が今なのかもしれない。


リカ先生は第3章の終わりにこう書いている。

「直感が大切だが、あまりにはっきりと評価が決められることについては、むしろ「これは後になって変わるかも」と疑ったほうが本当はよいはずなのだ。そもそも人間のやることは、白か黒かはっきりしない、絶対的な正解はないもののほうが多いと考えるのがよいのではないか。(中略)「まあ、いまのところはそう思っているのだけれど、もうちょっと様子を見てみないと何とも言えないね」といったあいまいさを認めるゆとりが社会にも人々にも必要なのではないだろうか。そしてこの「あいまいなまま様子を見る」という姿勢はまた、自分と違う考え方、生き方をしている人を排除せずに受け入れるゆとりにも、どこかでつながるものだと思われる。」


まさに私もそう思う。職場の若者たちの、それこそ若気の至り的な傲慢さで、一瞬で人間の能力の優劣を判断する一刀両断なサバサバ感には手厳しいものを感じていた。
それはまさに「こいつよりは仕事が速いから勝ってるな、私の方が価値があるな」というささやかな安堵を必死になって追い求めている、そうしなければ不安でしょうがない哀れな姿である。この不況下だから「今度、契約を切られたら次はない」という危機感が拍車をかけているのもよくわかる。でも、一日のうち8時間も一緒にいる人間同士なのに、あまりに人間判断のピッチが速いし、肝心の判断を下すポイントも少なすぎるように思う。「仕事場なんだから仕事の能力でその人物の判断をして何が悪いの?」、そういう性急さ、狭量さがたしかに顕著になってきている。「大丈夫?替わろうか? 何だか大変そうだから…」人前で人を助けるふりしてその人の能力のなさをさり気なく周知させる巧妙さは日常茶飯事だし、「言いたい事はあるんだけれど、今言うとまたパニックになるから言わないでおくね」というやさしさにカモフラージュした嫌みもよく聞く。

しかし、暢気な上司には社員同士がそんな冷ややかな戦いをやりあっている姿は見えていない。「互いに助け合ってよくやっている」「気遣って仲がよい」と表面上は映るかもしれないが、実際は育つべきチームワークはこれでは育たないだろう。なぜなら周りは本質的にはぜんぶ敵だからで、そして敗者がいてこそ勝者が目立つというもので、勝者になるには敗者を何としても作り出そうとするからだ。あれでは精神的に毎日疲れるだろうな、としみじみ思う。そして「あの子はデキない子」というレッテルを誰かが貼ると、みなで共通認識化して、誰も「そんなことないよ、○○はできてたよ」などと言ってかばって剥がしてやろうとはしない。落ちこぼれがいる方が皆が「あそこまでは酷くないはず」と自分が思えて安心できるから、実は内心ありがたいのだろう。そういうからくりを誰もが知っていて、知っていながら「ぎすぎすして嫌だなあ」と鬱屈しているにもかかわらず、それでも正せない職場は数多くあるはずだ。ちょっと前からCMにやたらに「私へのごほうび」というキャッチコピーが数多く出たが、あれこそ背後には「社内ではなかなか誉めてもらえない私」「せめても自分で自分を誉めてやろう」という時代の気分をよく表している。近年「人を育てます」と堂々と言える企業が少なくなったが、リカ先生の言う「あいまいなまま様子を見る」ことが、もしかしたら案外「人を育てる」に直結していくことなのかもしれないなと私は思っている。育つかもしれない芽を切れ味鋭い刃で互いに焦って切り合うなんて、ほんとうにもったいない。

ところで私はやさしさはいちばんの強さだと思っている。なぜなら、人間は困難な状況に陥ると自分のことで精一杯になって、いちばん最初にまず他者へ向けるやさしさが失われてしまうからだ。そして、それはどうしようもないことだとも思っている。でも、そのやさしさをどんな状況でも心に持とうと思い出し、頑張る人はほんとうに強い人だと思う。やさしさみたいなほんのり淡い感情は、競争社会では何の役にも立たないのかもしれない。やさしい声は怒号にたちまちかき消されてしまうかもしれない。でも、ほら、ブルーハーツが「人にやさしく」を大声で歌ってくれたように、心からそういう強い人を若者には目指してほしい。
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by zuzumiya | 2011-04-11 17:09 | わたしのお気に入り | Trackback | Comments(5)
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Commented by うさぎ二匹 at 2011-04-11 20:14 x
先日、職場の若い子が辞めたのですが、その子はとっても作業が遅かったんです。皆、排除してる居心地の悪さがあったんだと思います。だけど仕事は丁寧なとこがあって、多分自分で一つ一つを消化しなければ前に進めなかったんだと思います。私の職場は何にも教えてくれないんですよ。見て覚えてって感じで…私もいくつか職を変わりましたが人を育てるって職場は今の時代そう見当たらないと思います。本来伸びる人を潰したり失業に追い込んだり残念です。それから小学生から部活にしても何にしてもひたすら頑張ることを強要して可哀想に感じます。小さい頃から劣等感持たせてそれぞれにいいとこあるのにですね…
Commented by zuzumiya at 2011-04-12 10:38
ほんとにその若い子は残念です。何かトラウマになって「自分はダメだ」と思い込んでこれから先の職探しに悪影響を及ぼさないか心配です。うちにも新卒が入ってきました。私が思う事はただひとつ。大人の社会が怖いところ、嫌なところと思わせたくないこと。たしかにキツイこと言う人もいるけれど、「大丈夫だよ。○○はよくできていたよ」とか「焦らないで、ゆっくり自分の色を出して居場所を作っていけばいいんだよ」とやさしく声をかけて、"長い目で見てるから"と不安な心を安心させて、本来の力を出せるように出せるようにもっていってあげる人が一人でもいることが大事だと思っています。本来はそういう心のケア、職場環境のマネージメントもできることが上司(チーフなど役付き人間)の大きな仕事なのだと思っていますが、現代ではどうもただ仕事ができる、数字を残した、それだけで役付きとなって偉くなっているような気がします。職場には仕事がほんとうに速くできる人もいれば、面白いジョークを言って周囲を和ませるムードメーカーも必要です。ロボットじゃないので、いろんな人がいて、いろんな想い(目的や熱意の程も含めて)で仕事をしているんだという根本を忘れちゃいけませんよね。
Commented by zuzumiya at 2011-04-12 11:08
それと、もうひとつ。いつの頃だったか「いいチームワークのためには一人一人がまず強くあらねば」的な考えが出ましたよね。あれから、従来私達が育ってきて思い描いていた「ひとりはみんなのために、みんなはひとりのために」「和」のチームワークが崩壊したように思います。たしかにその意見もわかるのですが、個人のデキを意識するばかりにチームなのにチーム内でお互いを競い合うような雰囲気ができてしまったように思えます。そういうのを「ライバル」とか「互いに切磋琢磨する」ともいうのでしょうが、「チームのために」とか「自分達は何がしたかったのか」という共通の思いひとつに心がほんとうに結ばれていないと、結局はデキの悪い個人への攻撃が始まってチームワークが大いに乱れてしまうように思えます。そういうことを学校の部活で十分学べると思うのですが、現実はストレス発散のいじめが蔓延っているようなので、大人の指導力のなさなのでしょうが、可哀想です。
Commented by 優夢 at 2011-04-12 11:24 x
おひさしぶりです。ブログの更新ありがとうございます。

今日初めてネームカードをクリックしてみたら、私の知らない
かずみさんの好きなものがいっぱい載っていて嬉しくなりました。
「地団駄はダンスのリズムで。」本当ですね。思わず笑みが・・・

ひとつおすすめが・・・もうご存知かもしれませんが、「ダカフェ日記」
というサイトをのぞいてみませんか?

福岡に住むご家族の写真とコメントに、本当に癒されます。
我が家は家を出た社会人二年目の娘と、高三の息子がいる
のですが、こんな風に何気ない日常を切り取っておけば良かった
と後悔してしまったくらいです。

心の中にはまだいっぱい残っているのですが・・・目の前の息子との
あまりのギャップに引っ張り出してギュッと抱きしめたくなります(笑)

私も図書館で「しがみつかない生き方」借りて読んでみますね。
こんなにかずみさんに惹かれるのは、もしや同じB型だからでは(笑)

Commented by zuzumiya at 2011-04-12 22:05
優夢さま、こんばんは。お久しぶりです。「ダカフェ日記」は写真集が2冊でしたか?、出ていますよね。本屋さんで見ています。何気ない日常を切り取ったいい写真で、私も大好きです。私が紹介している「あに☆いもうと」さんのところもいい写真でしょう?  写真集でいちばん好きなのは写真家の家族や妻、恋人を撮ったもの。モノクロですが、上田義彦さんの「at Home」もおすすめです。「こんなにかずみさんに惹かれるのは…」なんて書かれると照れます。文章書けなくなってしまいます。 


ふだんの暮らしに息づいているたいせつなもの、見つめてみませんか?


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