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しょうの流「CM天気図」〜CM変換期・商品CMなのにさり気なく企業CM〜

朝日新聞の朝刊に「CM天気図」という小さなコラムがあるのをご存知だろうか。毎回、コラムニストの天野祐吉さん(元『広告批評』の編集長で、私が一期生だった「広告学校」の校長先生でもあった)が独自に注目するCMを取り上げて、いろいろ面白可笑しく書いてらっしゃるのだが、90年から始まって今回どうやらそのコラムが1000回を迎えたらしい。まずは天野さん、おめでとうございます。
それで、朝日新聞の26日の朝刊の「オピニオン」のコーナーに大きく「CM天気図1000回」とあって、6段にも及ぶ大スペースで天野さんの貴重なご意見が載っていた。

内容をざっと紹介してみる。(< >内は天野さんの言葉の引用です)
お得意の大正〜昭和初期の「スモカ歯磨」の片岡敏郎から始まって、60年代のアンクルトリスの開高健や山口瞳の名コピーの話、そして日清カップヌードルの「ハングリー?」やJR東海の「そうだ、京都、行こう」のシリーズ、BOSSの「宇宙人ジョーンズ氏」やソフトバンクの「白戸家」のシリーズなどを例に出しながら、
<時代の空気をいきいきと映しとっているCMほどヒットするし、ヒットすることで、それだけその商品を世の中に押し出す役割を果たす。面白いということは広告の必要条件なのだといっていい>と断言する。
じゃあ、これから広告はどうなっていくのかという質問に、86年にヒットした明石家さんまが一人で歌う「しあわせってなんだっけなんだっけ、ぽん酢しょうゆのある家さ」のCMが2009年にも再登場したことをあげて、86年の段階で、物を買ってもちっとも豊かな気分になれない、むしろ虚しいという消費者の気分が時代のなかにあって「しあわせってなんだっけ」のコピーを突きつけられたのだけれど、それがなんと2009年までずっと続いていたことを証明してみせている。今後は大量生産・大量消費の20世紀型の<経済の成長よりも生活の質を第一に考えるようなモデルに大きく変換しなければならない>として、またそうであるがゆえ、<20世紀型の生活像を描くのに広告は先導的な役目を果たしてきたが、その大きな書き換えにも力を発揮できるかどうかが、いまは問われているんだと思う>と天野さんは語っていた。
                  
私ももちろん、天野さんのあげたBOSSやソフトバンクのCMは面白くて大好きなのだが、最近のCMを見ていると、やはり変わってきつつあるのかなあと思っている。
個人的な好みもあるだろうが、市川準さんがCM界からいなくなられて、市川さんのやり方とは違うが、明らかにCMにやわらかなタッチのものが増えてきているように思う。CMにそれこそ「癒し」のような類いのものが増えてきているのだ。昔は目立つことがCMの最大条件だった。映像も出てくるタレントもジングルのような音楽もみんなそう。がんがんに押せ押せムードだった。それがこのところ、めっきり映像も音も静かにおとなしくなった。足し算ではなく引き算のCMが増えてきたようで、その変わりように驚いている。

アフラックのCMを憶えているだろうか。クリスマスバージョンだったか、まるで「みんなのうた」のようなシンプルなアニメーションに子供の声で拙く可愛らしく歌っていた。それからちょっと前まで流れていた宮崎あおいちゃんのシリーズも「今日も誰かの誕生日。ハッピバースデイー、誰かさん〜」と歌ってくれていた。私は自分の誕生日にあれを見た時、やっぱりうれしくて泣きそうになったものだった。
アステラス製薬の「120文字のアステラス」シリーズのあの文字や線描だけのシンプルな画面にピアノの音。私が見たのは「患者さんからの手紙」篇だったが、研究者生活21 年目にあたる製薬会社の研究者が患者さんからの手紙をMRに見せてもらって、胸にぐっときたというちょっといい話。会社側の人間がお客様とのこういったやりとりの中で感じた素直な想いを120文字で綴っている。そこへ「明日は変えられる」という希望あるコピーも効いて、企業の懸命さや誠実さが見る者にすんなり伝わってくる内容だ。

それから企業精神といえば、今、東芝が素晴らしいことをやってのけている。
東芝日曜劇場で今月から始まった「冬のサクラ」というドラマ。Smapのクサナギ君が今井美樹さん演ずる記憶喪失の女性に「大丈夫ですよ」と何度も声かけするシーンがある。物語のなかで実にその「大丈夫です」の台詞が温かく心に沁みた。「いいよなあ、この大丈夫という言葉」とひとりごちていたら、後に流れたCMを見て驚いた。
日本初の白物家電(冷蔵庫、洗濯機、掃除機)国産1号機80周年の記念CMとして「母親の目で見ると」篇と「父親の目で見ると」篇の2つが今流れているのだが、そのなかでどちらもやたらに「大丈夫」という言葉が台詞で使われているのだ。最後に「ママゴコロ家電」のCMでもおなじみの天海祐希さんのナレーションで「今も昔も『大丈夫』と笑って家族を守る人の力強い味方になりたい。(中略)東芝は『大丈夫』のエールを送り続けてきました。その想いは今もあなたのママゴコロ家電に受け継がれています」で締めくくる。

天野さんのコラムの記事が載った日にも新聞の全面で東芝の国産第1号の掃除機の広告があり、コピーは「日本初の掃除機から80年。東芝は「大丈夫」と笑って家族を守る人に、ずっと「大丈夫」のエールを送ってきました。」とある。つまり、東芝日曜劇場のドラマとCMなど広告全体が完全にこの「大丈夫」の言葉と精神でリンクしているのだ。そしてその背景に何があるかといえば、不況によるリストラ、学生の就職の超氷河期、政治への不信感、虐待事件、国家間のやまらない紛争、異常気象など私たちの心に積もりに積もった不安があって、みんなが誰かに「大丈夫」と言われて安心したがってるそういう時代の気分があるように思える。東芝はそこを実にうまく衝いている。ツイッターでも早速、誰かがこの「母親〜」篇がいいと呟いていた。私も心温まる好きなタッチのCMだが、何より企業の時代の空気を読むその鋭敏さと現在の商品にまで落とし込むうっとうしくない歴史や伝統の見せ方、そこに変わらぬ企業精神を伝え込む巧みさにクオリティの高さを感じて、好感を持っている。

それともう一つ。これは究極の静かなCMといえる。音楽の流れていた記憶はあまりないのだけれど、もしかしたらあってもほんとに邪魔にならないくらい静かな音楽がBGMで流れていたかもしれない。サントリーウエルネスのサプリメント、「グルコサミン&コンドロイチン」のCM。いたわり合う夫婦の静かで穏やかなひとときの映像にほっこりする。
以前のバージョン「野良仕事から帰る夫」篇も旦那さんである俳優の左右田一平さんが栗をいっぱい収穫して帰って来て、それを庭先で犬と奥さん役の香川京子さんが迎え入れて「栗ごはんにしましょうね」「うん」と微笑むだけのを見た憶えがあるし、現在流れている「道に荷物を置く主婦」篇も、奥さんがひとり、道で両手に持った重そうなスーパーの袋を置くと、向こうから自転車を押しながらやって来た笑顔の旦那さんが「おい」と声をかけ、二人で夕日を浴びながら橋の上をゆっくり歩いていく。奥さんは「ありがとうございます」という台詞だけ。二人の姿に「いたわる。ささえる。」のコピー。
もの凄くシンプルで、ドラマというドラマのない、日常の単なるひとコマに完全に徹した仕上がりのCMなのだ。初めて見たときから、このCMらしからぬさり気なさ、静けさに驚いてとても気に入って、ひそかに「これこそ今を表すCMだ」と思っていた。

まあ、ひっきりなしにがちゃがちゃとうるさいCMや番組の流れるテレビのなかで、ここまで豊かな静寂と穏やかさをたたえていれば逆に「アレ?」と目を引く、耳を引くとも言える。でも、この何でもない日常のありがたみ、元気でつつがなく毎日を送り、その毎日の中からささやかな楽しみを見つけられる幸せ、それを誰かと分かち合えることに感謝すること。それこそがこれからの暮らしのほんとうの豊かさだと教えてくれているようでもある。貧乏だけれど夫婦で支え合って生きていた「ゲゲゲの女房」旋風が巻き起こったのも、このグルコサミンの夫婦シリーズのオンエアー時期と重なっているのも面白い。中高年というセグメントされた対象に向けたものであるとはいえ、きちんと時代の空気や気分、人々の好もしさを敏感に感じとり、控えめでなく必要十分に表現できていたと思う。

私が選んだどのCMもどちらかといえば、従来の攻めのCMというよりみんな「癒し系」である。きっとテレビの前で、私を含めて人々は誰かに「ハッピーバースデイ」と歌われて祝福され、出会えたことを喜ばれたいし、「明日は変えられる」と信じて頑張っている人をやっぱり信じたいし、「大丈夫」と言ってもらって安心したいし、日々の暮らしのなかで、大切な人の笑顔に出来るだけ長くふれていたいと願うものなのだろう。今のような先の見えない不安ばかりが続くのこの「時代の疲労感」をこれらのCMは従来の足し算型の鼓舞する方法ではなく、何とか少しでも癒そうと試みているようで、その健気さが企業の真面目で真摯な努力や誠実さのアピールにもつながっていて、「CMは面白くなくなった」と言われ続けてきたが、「いえいえ、そんなことはございません。より深く考えられて作られていますよ」と私は言い返したくなる。天野校長、そうは思いませんか?
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by zuzumiya | 2011-01-30 12:59 | 日々のいろいろ | Trackback | Comments(0)