暮らしのまなざし

夫婦の時間

もうずいぶんと夫婦だけの夕餉が続いている。
ふたりだけなのでほんとにささやかだ。
昨日のおかずの残りがあればそれでじゅうぶん。
新たにおかずらしきものを作ることもない。
まるで老夫婦のように、
テレビのニュースを横目にそよそよと食事をする。
私はすぐに食べ終え、夫が食べ終えたのを見届け、
ふたりでお茶をすする頃には、テレビは騒がしいので止めてしまう。
夫は十数冊にもわたる長編の歴史小説のようやく五巻めを、
私は小さな町でおこるさまざまな人間模様を描いた外国の小説を、
テーブル越しに、それぞれ子供が座るべき空いた椅子に足を放り出して読む。
聞こえるのは時おり強まったり弱まったりするヒーターの風の音と、
加湿器のしゅうしゅうと吹きあげる蒸気の音だけ。
夫の物語は陰謀に策略に、戦いに美女の誘惑に…なんだろうか。
私の物語は外国の海辺ののどかな風景が続く。
そのうち、たまらなく眠くなってくる。
うとうとして意識が遠のくなかで、
しずかすぎる夫婦の時間を思う。
詩人の天野忠は、
「結婚よりも私は「夫婦」が好きだった。
 とくにしずかな夫婦が好きだった。
 結婚をひとまたぎして直ぐ
 しずかな夫婦になれぬものかと思っていた。」
と書いたが、私もこの出だしを好ましく思っていた。
天野忠は三十年経って、ようやく夢見た「しずかな夫婦」になれたらしいが、
私は二十一年で、うっとりするほどじゅうぶんなしずかさを手に入れた。
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by zuzumiya | 2011-01-25 22:40 | 日々のいろいろ | Trackback | Comments(3)
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Commented by 優夢 at 2011-01-28 21:33 x
しょうの かずみ様

やっとあなたにたどりつけました。

「蛇のしどろもどろ」を閉められてから、あなたの言葉に触れられない
淋しさを感じていました。

図書館で「夫婦いとしい時間」に偶然出遭い、あなたの生活の中に
流れる時間がとても心地よくて・・・

一年間どんな風に過ごされていたのか、今日からゆっくり読ませて
いただきますね。

再開して下さって本当にありがとうございます。楽しみにしています。
Commented by zuzumiya at 2011-01-29 00:33
はじめまして、優夢さま。そう思って頂けて、とてもうれしく感謝しております。と同時に恐縮してしまいます。「蛇の〜」では実はいろんなことがあり、自分の言葉やネットという公の場について、いろいろと考えさせられました。今でも自分の気持ちや考えをどこまでどう書くか、ほんとは何がしたいのか、何をそんなに伝えたがっているのか、というようなことまで深く考え込んで動けなくなることがあります。いつでも気持ちのすべてを書き切ったことはありません。それが手紙やメールでなく公の場ということなのでしょうか。迷いながら、でも突き動かされながら、書いています。文章のひとつずつが積み重なって、私という人間の輪郭をぼんやりと作ってもいるのですが、そこに私はいるけれど、すべてではないのです。また、よろしくお願いします。
Commented by zuzumiya at 2011-01-29 00:35
鍵コメント様
こちらこそ、よろしくお願いします。新しくここから始めましょう。
来てくれてありがとう。元気で頑張ってください。

ふだんの暮らしに息づいているたいせつなもの、見つめてみませんか?
by zuzumiya
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