なんという豊かな刑務所ライフ

a0158124_23251961.jpg花輪和一の『刑務所の中』の漫画を読んだ。
職場のおやつの時間にアルフォートが出て、「アルフォートといえばさ」と話がなったのだ。夫が家でアルフォートを食べるたびに「刑務所でね、映画を見ながらアルフォートを食べるっていうのがあって。それが旨そうなんだよなあ」と言うので(言っておくが、夫は受刑経験はない)、私もいつの間にかアルフォート=刑務所になっていて、そういう回路の人が職場にもいたことに驚いた。話は盛り上がって、原作も映画も知らない私に職場の人がわざわざ花輪さんの漫画を貸してくれることになった。
読んでみて、びっくりした。
刑務所が舞台の漫画なのに、なんでこんなに平和で穏やかなんだ。
なんでこんなに安らいでいて、守られ感があるんだろう。
三度の食事がよくて、生活に適度なメリハリを生む規律があって、きしっと部屋が整理整頓されて清潔に心がけてあって、季節感がシャバよりずっと濃くって、修学旅行に来ているか寮生活のように受刑者の仲もよくて。
日向のベンチでする世間話の話題が淡々と殺人の話だったりして、ようやく、
「ああそうか、ここにいる人たちはみんな極悪人だったんだ」と気づく。
人間の凄さとはやっぱり適応能力にある。
刑務所のなかにいて、分刻みでこなしていく生活があって、ルールがあって、生まれるリズムのなかにいて、さしあたっての今現在を「決められたとおりに、そういうものとしてそのように」やり過ごす、その適応能力たるや凄い。
刑務所というのはシャバの人々のような金銭や競争の憂いもなく、完全に世間から隔離されたある種安全に守られた宙ぶらりんの場所なのかもしれない。
三度の食事をとっても、毎日の労働や運動をとっても、たまの風呂にしても、生活のひとつひとつが生き生きとして、メリハリがあるから充実も満足も感謝もいちだんとあるように見える。
なんでだろう、どこか羨ましいくらいの、人間本来のあるべき生活があるように感じる。
刑務所なのに。なんでそんなに豊かなの。

a0158124_23263051.jpgあんまりにも漫画が良かったんで、山崎努が花輪さんを演じている映画の方も見た。
刑務所の映像に、明るく軽やかなクラシックのピアノがBGMでぽろんぽろんと流される。
房の窓から差し込む光がきれいで、山並みも清々しい。
窓の外に舞う小雪も、湯船から立つ湯煙もみな繊細で美しい。
お正月にふるまわれる食事の美味しそうなこと。そのふんだんなこと。
淡々と、でも正直で人間味のある山崎さんのナレーションが、ゆるやかに流れる時間をさらに豊かな滋味深いものにしてしまう。
刑務所なのに。なんでそんなに豊かなの。

「いいんだろうか」を何度呟いたことか。
[PR]
by zuzumiya | 2010-12-07 00:21 | わたしのお気に入り | Trackback | Comments(0)
トラックバックURL : http://zuzumiya.exblog.jp/tb/11668696
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。


ふだんの暮らしに息づいているたいせつなもの、見つめてみませんか?


by zuzumiya

プロフィールを見る
画像一覧

S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30

※このブログの無断な転載はご遠慮願います。

最新の記事

今を歌え!
at 2017-11-18 15:32
ペットショップの恐るべきおば..
at 2017-11-05 13:55
不眠症かも…
at 2017-10-28 21:53
謝り癖
at 2017-10-25 22:09
母の孤独、私の孤独
at 2017-10-22 15:11

最新のコメント

検索

ブログジャンル

画像一覧