駅までお迎え

仕事帰り、乗換駅に降り立つといきなりものすごい勢いで雨が降ってきた。
今日は一日晴れだとばかり思っていたので折りたたみ傘など用意しておらず、駅に着いたら、残業したぶんちょっと甘えて、夫に車で迎えに来て貰おうと思った。
ところが地元の駅に着いたとたん、雨はきれいさっぱり上がっていた。
慌てて夫に電話して迎えに来なくてもいいと告げ、雨があがったのをいいことに駅前の本屋をふらり覗いて、文庫本一冊選んで出たら、またもや雨が激しくなっていた。
今更迎えに来いとも言えないので、しかたがなく裏手のコンビニに駆け込んで、ビニール傘を買った。
「500円も出すなら、迷っていたもう一冊の方も買えたよなぁ」
ぼやきながら道を歩いていると、前からエプロン姿の奧さんが傘を抱きしめて小走りに走ってきた。たぶん、これから駅に誰かを迎えに行くのだろう。
旦那さんかな、それとも塾帰りの息子かな。なんだか、懐かしい姿だな。

「もしもし、かあさんかい? 急に雨に降られちまって、今駅に着いたんだけど、悪いんだけど傘もってきてくれないか」

奥さんはエプロン姿だったから、夕飯の仕度の忙しい最中だったか、早々に食べ終えたお姑さんのお茶碗を洗っていたところかもしれない。

「はいはい、持っていきますから、西口の改札んとこでいいんですよね」

何気ない会話があったかもしれない。
サザエさんのひとコマのようなやりとりを思い浮かべてほんわかしてしまい、いつのまにか500円の怨みはどこかへ消えていた。

子供の頃を思い出した。
どういう気まぐれか、単にひまだっただけかもしれないが、わたしも大工だったおじいちゃんの仕事の帰りを駅で待っていたことがあった。おじいちゃんを驚かしてやるとか、きっと喜ぶにちがいないぞ、とか、子供心にどうすれば大人が喜ぶかちゃんとわかっていて、それだから「待っている」という演出が妙に照れくさくてしょうがなかった。
ああ、あの時のあの所在なさ。
改札の切符きりの囲いに腰掛けて足をぶらんぶらんさせてみたり、駅員さんに「誰か待ってるの?」と聞かれて「うん、おじいちゃん」と答えたら、「えらいねえ」って誉められたり。路線図の駅名の漢字を片っ端から読んでみたり。
ようやく電車が着いて、改札を出てくる人混みの中におじいちゃんの頭を見つけたときの、あのわくわく感。目が合った時のなんともいえないうれしさ、気恥ずかしさ。
あのあと、おじいちゃんとわたしはどんな会話をして家まで帰ったのだっけ……。

ふと気がつくと、雨はまた上がっていた。
さっき、傘を抱えて走っていったあの奥さんも無事に旦那さんに傘を渡して、今頃、夜道をふたりで歩きながら、どんな会話をしているのだろう。
駅で互いを見つけたときの、あの一瞬のほっとした感じ、なんとはなしの照れ笑い。やわらかな気持ちを胸に灯して歩いているだろうか。突然の雨のおかげで、夫婦でちょっとした夜の散歩ができたこと、こそばゆく感じているだろうか。奥さんが車でスマートに迎えに来たら味わえない情緒だな、とも思う。
「あらやだ、せっかく、走って持ってきたのに、もう上がってるじゃないの」
「あれあれ、ほんとだ、なんだこりゃ」
こんな拍子抜けのオチもほほえましい。
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by zuzumiya | 2010-09-23 13:08 | 日々のいろいろ | Trackback | Comments(0)
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