女の子ってこういうもの

a0158124_1518736.jpgどいかや(土井香弥)さんの『チリとチリリ』のシリーズが好きだ。

私は小さい頃から女の子らしい人生を送ってこなかったと思っている。可愛いワンピースを着て、おもちゃのアクセサリーをつけ、男子に脅かされてきゃあきゃあ半泣きして逃げまわってしまうような、小さくて可愛くて細っこくて、泣き虫でよく笑ってよく怒って、甘いモノと可愛いモノに目がなくて、というような女の子じゃなかった。

ムカッとくれば男子の背中に跳び蹴りを喰らわし、逃げれば野球のバットを投げて見事命中させ、やせっぽちなら胸ぐらを掴みあげ宙に浮かせた、ものすごい男勝りの(男泣かせの)けんかっ早い乱暴な女の子だった。でも、心の奥底では普通の可愛くてか弱い女の子らしい女の子に憧れていて、みんなの前ではそういう自分を隠して、ひたすら男子の生け贄を探して鬱憤をはらしていた。

話がそれたが、『チリとチリリ』の絵本のなかには、私が順当に育てば難なく手に入れられたであろう普通のありきたりな女の子世界の可愛いもので充ちあふれている。絵柄もタッチも色遣いもお話も、女の子がきゅうんとくる感覚の落としどころもぜんぶある。今になって手に取ると、男勝りな「キュリー夫人」じゃなくてこういう可愛らしい女の子らしい絵本を祖母に買って貰って、ひそかに眺めていればまだ良かったのになと悔しくてならない。

まず本を開くと、見開きで「チリとチリリ」の住んでいる里の絵がある。
ふたりが住んでいる家からこれから出かけていく場所の地図が描かれているのだけど、左上には海があり、中央に家がたくさん建っている街があり、畑や小高い丘の上にいくつかの家が点々として、右端は森へと続いている。

私は小さい頃から、この見開きの「主人公の家のまわりの地図」が大好きだった。主人公の家を見つけて、ここからこう道を通ってこう行くとこんなお屋敷に出るとか、こんなところに秘密のトンネルがあるとか、ここには不思議な池があるとか、ここにヘンなお店屋さんがあるとか、中身を読む前に「きっといろんな楽しいお話がこのなかで展開するんだろうな」と想像しながら見ているのがまず最初の楽しみだった。

これは読み始める前だけではなく、読み終わった後にもいい効果があって、後ろの見開きにもちゃんと表と同じ地図が描かれていて、絵本のなかの冒険や旅の振り返りができるようになっている。「ああ、ここを通ってこう行ったんだっけ」という思い出をもうちゃんと楽しめるようになっている。親子で読み終えたときなど、この地図を指で追いつつ、楽しい余韻にひたりながら語らえるように工夫されているのだ。
そういう子供ごころをこの『チリとチリリ』の絵本もちゃんとおさえてあるところが、まず好感が持てる。

それから、絵本というからには絵の上手さや好みが大事なんだけれど、どいさんはパステルや色鉛筆で描いているが、見ていてこちらがうれしくなるくらいとても精密で丁寧なタッチなのだ。この「うれしくなるくらい」という気分こそ、絵本の命だと思う。幸福感。どんなに中身のお話が為になって良いものでも、絵本を開いた瞬間に「わあ〜」と子供も大人も顔が輝かんばかりに明るくなれる絵で、絵本はまず迎えてあげてほしい。具体的に表情筋をむきっと動かす、それは絵に力がなければできないことだ。

これから始まる世界へ「さあおいで、出かけよう」としっかりと手を差し伸べてくれる確かな圧倒感が、どんな繊細で美しい絵でも、力強い野太い絵でも、ペンでも筆でもクレヨンでも、絵本の絵にはあって欲しい。この小さな薄い本のなかにたしかにどこまでも世界がえんえんと続いていることを教えるのは、言葉の読めない子供たちが開く最初の本である絵本の、まずは絵の力なのだから。

どいさんの絵には「いつくしみ」が見える。子供たちへの、子供の純粋さへの、絵を通して慎重さとも奉仕とも言い得るような丁寧な接し方。大人以上にごまかしがきかない子供の無垢なる目に尊敬を感じていて、「子供の目にかなうものを」という一途さが絵の全体から見て取れる。最近の若いイラストレーターの描く絵本には、実験的ではあるけれど、どうも大人が見てお洒落というだけで、子供の存在などはなから考えられていないような浅薄なものもあって不満に思うことが多いのだが、どいさんの描く絵本は(当たり前なんだが)どれも子供に寄り添ってしっかり味方している感じがして、絵本という聖域の安心感がある。

チリとチリリは双子かな、ひとつ違いぐらいの姉妹かな。
幼稚園の年長さんが小学1、2年生くらいで、白いワンピースを着たおかっぱさんの細っこい女の子。自転車に乗るのが大好きで、天気がいいと森へ行ったり、原っぱへ行ったり、街へ行ったり、海へ行ったり、そこいら中をふたりで旅するのだ。
私には姉妹がいないけれど、チリとチリリを読むと姉妹もいいなと思う。話が飛ぶが、クウネルという雑誌で江國香織さんと妹の晴子さんが文通をしているが、私はあれを読むのが結構好きである。なぜ好きなのかといえば「よく○○ごっこをしたわね」と江國さんが手紙のなかで小さい頃した姉妹のオリジナルな遊びの思い出話をするのだが、何だかあの姉妹でするごっこ遊びに憧れがあるみたいなのだ。

女の子同士のもつ不思議な仲良し感覚、同盟感覚というのか、ベタベタなくせに姉妹としての役割分担や力関係もあっただろうし、そうかといえばそれぞれが勝手気ままに好きな本を読んで独りをよしと楽しんでいたりもする。兄弟もわからないけれど、何か姉妹ならではの仲良しの空気の加減があるに違いなくて、姉妹って謎めいていて面白そうだなと思ってしまう。たぶん、そのへんのところが姉妹というのを越えて、大人になってもある種の女の子どうしの望ましい感覚として読者にうけているんじゃないかなと思う。
チリとチリリはだからちょっとだけ、私のなかでは江國さん姉妹に重なるところがある。

チリとチリリは女の子のくせに勇ましく、冒険好きである。
洞窟のなかも海のなかも森のなかも夕暮れのなかだって、ぐんぐん自転車をこいで行く。「女の子のくせに」とはずみで書いてしまったが、実は女の子というのは外見に似合わず、男の子なんかより決断力があって、好奇心旺盛で衝動的な生き物なのである。そういうほんとのところが実にすがすがしく描かれているから、チリとチリリは見ていてうきうきしてくるのだ。

そして、女の子心をきゅんとさせるのは、なんといってもお話に出てくる食べもの、飲みもの。ちょっとシリーズから拾い出してみると、「はちみつパンのくわのみジャムサンド」「にんじんパンのゆずジャムサンド」「ナッツときのこがたっぷりはいったじゃがいもとかぼちゃの2しょくのポタージュスープ」「なみのあわパフェまきがいふう」「うみのソーダゼリーしんじゅクリームのせ」「しぼりたてはっぱのミックスジュース やまももとのいちごのつぶつぶいり」「ほたるいしキャンディー」

どれもこれもため息が出てしまう夢のメニューだ。こういうのをどいさんはちゃんとお話の真ん中に挟んで、子供たちを、女の子たちを、きゅんとさせてしまう。
『ぐりとぐら』のあの巨大な黄色いホットケーキは、どんなに美味しくてカラフルなお菓子がポケットにあったとしても、いつの時代でも絵本をひらけば子供たちが今まさに最高に食べたいお菓子であり続ける。絵本の中であのホットケーキにかなうお菓子は今後も出てこられないだろうと断言できるが、どいさんも子供たちのために可愛らしい工夫をこらしてくれているのがうれしい。

私がエッセイを読んだり書いたりするのが好きな理由とも重なるが、このいつもの日常をちょっと違った視点で見てみるとこんなふうに見えるよと、伝えたり教えてもらったりすることが、毎日を楽しんで生きていくのに結構だいじなテクニックになると常日頃感じている。絵本の世界もお話や物語を1冊読んで「ああ、面白かった。わくわくした」と完結してしまうんじゃなくて、もっと子供たちが生きている身のまわりをもう一度よく見てみようとする観察力へ、絵本のファンタジーのカラフル眼鏡をかけてもらったその目で今度は日常もひょいと見てみたら、思わぬところに思わぬものが見えたりして、ああいつも気がつかなかっただけかもしれないんだな、とふいにわかっていくようなところまで行けたらベストだと思う。

そうしたら今度はもっと世界を見ようとする貪欲さや好奇心が出てきて、人や自然や世界と交流するやり方まで変わっていくかもしれない。子供たちのそういうきっかけに絵本はきっとなれるだろうし、そうであってほしいと思う。日々の生活を心豊かに五感でもって、生きていることが面白いように、エッセイも絵本もそういうものを目指して描いていけたらいいと思う。

親子で読んだあとに『チリとチリリ』のように自転車に乗ってお買い物に行く。スーパーで売られているお魚がウインクしてくるかもしれない。きれいな色のオレンジを見つめていると南の国の暑いおひさまがじりりと見えてくるかもしれない。いつもと同じスーパーなのに見えてくる世界が不思議とちょっと違う。絵本として、小さな森の小さなお話として完結しえないで、そういうふうに子供の生活や日常に直に触れてくる、シンクロする力のある絵本らしい絵本をどいさんにはこれからもたくさん描いていってほしいと思う。
そして、私の女の子マインドをいつでもちょっと刺激してくれると、なおのことうれしい。


※『チリとチリリ』、『チリとチリリ まちのおはなし』、『チリとチリリ はらっぱのおはなし』、『チリとチリリ うみのおはなし』 アリス館
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by zuzumiya | 2010-09-19 15:27 | わたしのお気に入り | Trackback | Comments(0)
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