暮らしのまなざし

『魔性』を撮った鶴橋康夫さん

最近は面白いドラマがないなあ。
はじめて私がテレビドラマって侮れないな、凄いなと思ったのは、たしか中学生の頃に見た鶴橋康夫演出、池端俊作脚本、浅丘ルリ子主演の「魔性」という2時間ドラマだった。細かいところはもうだいぶ忘れてしまっているのだけれど、たしか浅丘ルリ子と芦川よしみが同性愛の関係で、浅丘の夫である津川雅彦が芦川とも関係を持ってしまい、裏切られた浅丘が芦川の人肉を食べて、死刑囚になって、最後は死刑が執行されてしまうという話。このドラマがきっかけで、私は10代のくせに妖艶な浅丘ルリ子と渋い色気の津川雅彦のファンになった。そして、演出の鶴橋康夫と脚本の池端俊作という名をしっかり憶えた。

オンエアで見てしびれた私はすぐさま翌日、離れて暮らす母親に電話してビデオに録ってあるかを確認した。運良く録ってあったので、後日そのテープを手に入れるためだけに母親の家に出向いた。しかし、それは「ベータ」だったために、自宅で再生できずそのまま「お宝ビデオ」として大事にしまわれたと思う。
大学時代に恋人になった映画好きの男には「すごいドラマがあるんだけど」と話して聞かせた。そして「ぴあ」でたまたま「鶴橋康夫特集」というのを見つけ、恋人を引っ張っていって、たしか横浜かどこかの小さな映画館で鶴橋さんの作品(伊東四朗が出ていた印象が残っている)を3作ぐらい立て続けに見たような気がする。「魔性」をそこで恋人に見せることができたんじゃなかったか。客はいくら待っても来なくて、結局、貸し切り状態で私と恋人のふたりだけのためにドラマは上映された。

鶴橋さんの「魔性」の演出はほんとに素敵だった。カッコよかった。
浅丘ルリ子演じる女の内面を鏡の反射をつかって、てらてらと不安定な光を浴びせて複雑に危うげに揺らいでみせた。彼女がただ黙って座っているだけで、魂が、情念が、此処ではないどこかにすーっと漂い流れていくような静かな怖さがあった。画も色づかいもとても美しく、妖しく退廃的で、幻想小説にとっぷりはまったような酩酊感と浮遊感があった。

特に覚えているお気に入りのシーンがある。
浅丘ルリ子が夫と愛人と3人で旅行をしていて、ふいに浅丘が橋の欄干に上って、いたずらっぽくするすると歩いていくシーン。貴婦人のようなつばの広い白い帽子を目深に被って、それがものすごく素敵で、風を受けて自由で、潔く、でも儚げで。そこに控えめに流れてきた音楽が、これまた実に大人っぽく洒落てて、「Do You Want To Dance?」とさらりと誘うような歌詞で、画にぴったりだった。

なんだかもうすべてがあまりに洗練されてて、大人の恋の粋な駆け引きが感じられて、10代の私にはたまらなくカッコよすぎて目に焼き付いてしまった。そのシーンと音楽のことをその後もずっと憶えていて、いつか曲を探し出して買おうと思っていた。
結婚して出産して、ずいぶんと後になったが、たまたまネットで「魔性」のときの助監督さんを見つけて、メールで質問したら快く曲名を教えてくれた。憧れのあの曲は、私が聞き取ったとおり、「Do You Want To Dance?」というタイトルで、歌い手はベット・ミドラーだった。早速CDショップへ行って、彼女のベストアルバムを買った。私がよくFENで聞いていた「Rose」も入っていて感激した。

それからまたずいぶんと時が経って、昨年だったか一昨年だったか、鶴橋康夫さん演出のドラマが今度は続きもので始まった。佐藤浩市主演の「天国への階段」だった。
鶴橋さん得意の反射光の演出はやっぱりここでも生きていて、くらくらするような危うい感じが出ていた。そしてなにより私を驚かしたのは、そのドラマでもベット・ミドラーの「Do You Want To Dance?」が使われたことだった。魔性の女、浅丘ルリ子をとらえどころなく妖艶に見せたあの曲が、今度は哀しい過去を持つエリートの佐藤浩市をまた艶っぽくニヒルに演出した。よほど鶴橋さんはあの曲がお気に入りなんだと知って、たまらなくうれしくなった。

そして、そのドラマで私はまたしても鶴橋さんに新しく音楽を教えてもらったのだ。フィリッパ・ジョルダーノ。フィリッパの「さようなら過ぎ去った日よ」そして「清らかな女神」が挿入歌で何度も流れた。彼女の胸の底から細く静かに絞り出すせつない歌声は、神に救いを求めるようなひとすじの強い願いが込められていて、映像とあいまってほんとに揺さぶられた。鶴橋さんほど音楽使いの巧みな、センスのいい演出家はいないのではないかと私は思っている。

ああ、また鶴橋さんの演出のドラマが見たいなあ。
映像と音楽が絶妙にからまる贅沢なマジックにうっとりと浸りたい。ドラマのなかで鶴橋さんおすすすめの音楽を教えてもらいたい。そしてできれば、死ぬまでにもういちど、浅丘ルリ子の「魔性」が見たい。

※この文章も7年ぐらい前に書いたものですが、鶴橋康夫さんは天童荒太さんの『永遠の仔』のドラマも良かったなあ。私のいちばん尊敬する演出家です。久世さんも亡くなってしまいました。どうか長生きしていい作品を撮り続けてください。次の作品も待ってい ます。ちなみに原作は一色次郎さんの『魔性』。
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by zuzumiya | 2010-09-16 20:31 | わたしのお気に入り | Trackback | Comments(7)
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Commented by うさぎ二匹 at 2011-02-17 22:01 x
こんばんは。二回目のコメントになりますが、最初に「魔性」この記事でこのブログを知りました。私も中学時代にテレビで見た限りですが、とにかくインパクトがあり未だにテレビ作品の中で一番心に残っています。私の周囲では誰も覚えておらず心の中にそっと閉まっていたのですが、このブログでそう!そう!そうなの!とまるで昔の友達に何十年かぶりに出会えたような感激を味わっています。
Commented by zuzumiya at 2011-02-19 00:50
コメントありがとうございます。この魔性の文章は以前のブログで書いていたものです。もしかしたら、その頃からブログを見てくださっていたのかな? だとしたらありがたいです。私もあの内容の作品をテレビのオンエアーで見られたことが不思議です。妖しく美しい幻想小説のような感じでした。鶴橋監督の光のチラチラゆらめく演出は、ちょっと主人公も見ている私達も一緒になって、現実から感覚が浮遊して、一瞬離れてしまったようなまどろみを覚えて、面白いです。音楽の趣味もよく、長く生きていてほしい監督です。
Commented at 2012-06-04 09:33 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by ほげ at 2012-06-21 10:33 x
こんにちは、はじめまして。
ドラマ「魔性」をググってこちらまで来ました
魔性、今月末に銀座の映画館で上映するみたいですよ
自分も時間作って見に行きたいなって思ってます
ご興味があれば、下のリンクからどうぞ

http://www.humax-cinema.co.jp/cinema/top_ginza.html
Commented by zuzumiya at 2012-06-21 19:26
ほげ様、ありがとうございます。●子様、すみません、間違ってアップしてしまいました。どちらの方も親切に教えて下さり、ほんとにありがとうございます。是非行かせてもらいます。凄い興奮しています!これはもう絶対見なくてはいけません!ああ、絶対行きます!私、鶴橋先生の大ファンなんで、もう弟子入りしたいくらいのファンなんで、うれしさと緊張で頭がパニックです!仕事帰りに行くんですが、仕事が手につくかどうかです。ほんとにほんとにありがとうございます!
Commented by しえん at 2013-03-20 04:47 x
はじめまして。
あまりに魔性のことが知りたくて、その時に流れていた「Do you Want dance」と浅丘ルリ子で検索してこちらにきました(笑)。
ご覧になりましたか。私も死ぬまでにもう一度みたいと思っています。
じつはほとんど内容を覚えていなかったドラマなのに、何故かベッッドミドラーの音楽と浅丘ルリ子さんの白い帽子の橋のシーンだけ覚えていて、あなたの文章で記憶が蘇りました。
素晴らしい文章です。
昨年6月に銀座で上映されたのですね。
ああ、観たかったです。
もうそういった機会はないのでしょうか。
どなたか、「魔性」の情報をお持ちの方が、またこちらにお知らせくださることを期待しつつ。
これからもブログ、拝見いたします。
お邪魔いたしました。
Commented by zuzumiya at 2013-03-20 21:56
はじめまして、しえん様。ブログを読んで頂き、ありがとうございます。そうなんです、実は「魔性」の根強いファンって昔からいるんですよね。私も驚いています。シネパトスの情報を教えて下さったのも見ず知らずの方でした。とても感動して、感謝しました。鶴橋監督は最近でも刑事もののドラマを撮っていらっしゃいましたが、あの頃の「魔性」ほどの演出の大胆さ、凄みはありません。「魔性」はほんとにいろんな奇跡が重なったドラマだったのでしょう。また上映会が開かれればいいですね。

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