暮らしのまなざし

まほちゃんがばらしたほんとうの『まほちゃんの家』

a0158124_17552549.jpg娘に頼まれた雑誌を買いに入った本屋で、うれしい本に出会ってしまった。こういうとき、本においでおいでと呼ばれたような特別な運命を感じる。しまおまほちゃんが(どうしても、いくつになっても「ちゃん」づけしてしまう)エッセイを書いたのだ。その名も『まほちゃんの家』。

お父さんであり、写真家の島尾伸三さんが幼い頃のまほちゃんと家族(お母さんは同じく写真家の潮田登久子さん)や親族(おじいさんは『死の棘』の作者の島尾敏雄さん)の写真をまとめて写真集『まほちゃん』を出したのが6年前。そのときの帯のかわりの表紙の丸いシールには、写真家で日芸の先輩であるホンマタカシ先輩が「あー、この家に生まれたかった!」ともらしている。

私も写真集を開くたび、豪徳寺の古い洋館の南に大きく開いた窓からほかほかの日差しをあびて、金色の塵が舞うなか、まほちゃんとお母さんの静かな寝息と温かな体臭としわしわでくしゃくしゃなシーツやタオルケットのやわらかさを感じて、まるでユートピアのようだとまぶしく思ってきた。写真集『まほちゃん』については、「しわしわでくしゃくしゃであたたかい場所から」に詳しく書いたけれど、この写真集に出会ったばかりの頃は、私もかなり影響されて家族の寝姿ばかりを撮っていたっけ。

どの写真にも伸三さんのまほちゃんや登久子さんへの、こどもという生命の登場したごちゃごちゃで活気ある暮らしへのやさしいまなざしがあって、貧乏でも小さな家族の幸せに満ちていて、私にとっては愛してやまない写真集のひとつである。ところが、ここへきてそのまほちゃんがエッセイ『まほちゃんの家』で、ほんとのところ、舞台裏を書いてしまっている。

特に伸三さんの困った父親ぶりには「えっ?」という驚きがあって、写真集からはやさしい父としてのイメージしかなかったから、かなりのショックとなった。伸三さんは登久子さんがいないと一気に乱れて、娘のまほちゃんにご飯も食べさせないダメ父だったし、酔っぱらうと2階の窓から庭に向かって立ち小便するほど荒れてしまう幼稚さがあった。そんなところは、壮絶な『死の棘』の家の息子だった人なんだとあらためて、しんみりした。登久子さんの母親像だって、写真集からは静かなマリア様的な温厚なイメージがあったが、まほちゃんの書くところによると、実はちょっと辛辣で冷ややかな面のある、そしてまほちゃんにどうにも有無を言わせない強さを放つお母さんでもあった。

芸術家の両親だと、ある意味、伸びやかだけどよその両親にはない孤立性というか、親子でも芯からべったりできないような距離感があるのかもしれないと想像できるが、写真集の世界があまりにほのぼのとしていたので、そういうことをつい忘れていたのだった。
芸術家のくせに、まほちゃんに早くから進学塾だのFAX塾だのやらせていたのもちょっと現実的すぎてイメージが狂う。

それでもなんでも、私はまほちゃん達家族の住んでた、あの水道もトイレも風呂もない豪徳寺のおんぼろの洋館が好きだ。まほちゃん達の昼寝する、あの時間が止まったような日だまりの家が大好きだ。幸せそうに見えて、実際幸せでも、家族の日々にはいろいろ厄介なことも悲しいこともある。あの家の床のように人生も家族もほんとは片付けなければならない問題だらけでごちゃごちゃしているものなのだ。

a0158124_17555765.jpg上田義彦さんがやっぱり家族を撮りためた『at Home』という写真集で、たしか「家族っていろいろあるけど、楽しいとかうれしいとかの瞬間を写真に撮りたいと思うし、撮っていればその思い出だけが形としてちゃんと残っていく」というようなことを書いていたと思うけど、私もそれでいいんだと思う。

いろいろあっても、あれらの写真の瞬間には伸三さんの単純なる「いいなあ」がぎゅっと詰まっている。それが純粋で極まっているからこそ、写真を見る側も「いいなあ」と自然にほどけてにんまりできるのだ。そこには問題よりも困ったよりも、ほんとに「いいなあ」という思いしか存在しないのである。その強さがなにより写真なんだと思う。

まほちゃんはまほちゃんの愛情のやりかたで、まほちゃんの家の思い出を書いた。
写真集が先に出て、そっちを先に見ていた私にとっては、写真集の裏話として「ふ〜ん、そうだったのか」とか「なあ〜んだ」とか思いつつ読んで、多少思い描いていたことと違ってショックだったりもしたが、それでもまほちゃんの家のあの光り輝く豊かさは何も変わっていない。

どうしてだろう。たぶん、わたしは伸三さんの見た、伸三さんの感じとった一瞬の強い幸福感を信じているのだ。いろいろあったとしてもあの強さを。まほちゃんが愛情にくるんでちょっとぐらいの無様さや哀しみの思い出をばらしたって、まほちゃんの家の「いいなあ」はちゃんとたまらなく、ゆるぎなく、ある。
そんなだから、私は私のなかの「永遠なるこども」がいつでもまほちゃん家に行けるように枕元の本棚に『まほちゃん』を置いて寝ちゃうし、みんな、まほちゃん家が大好きで、いつまでもまほちゃん家のこどもでいたいんだよ。


※島尾伸三さんの写真集『まほちゃん』を見てから、読むと楽しいんです。2冊いっしょにおすすめです。
上田義彦さんの『at Home』も素敵な写真集でした。手もとに持っておきたい写真集です。大好きです。
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by zuzumiya | 2010-09-10 18:00 | わたしのお気に入り | Trackback | Comments(0)
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