『うめめ』というサングラス

a0158124_16103315.jpg小説も好きだけれど、エッセイの方がより好きだ。
自分の抱えた日常から離れて、たとえ一冊分でも主人公と共に別の人生を生ききることが出来る小説というものは、すばらしく楽しい。
けれど、今いるこの日常の中のささやかな幸せを探りあてて、そっと教えてくれるエッセイには、いつでも目からウロコが落ちる。エッセイは今この場所、この時から逃げ出さずに、自分がより丁寧に、より豊かに生きていくためのヒントに満ちていて「ああ、自分はいったい今まで何を見てきたのだ」「どれだけ取りこぼしてきたのか」とひっそりと反省もし、日常を生きていくチカラそのものになってくれる。

梅佳代さんの写真集『うめめ』に出会って、写真も言うなれば本のようにエッセイが好きなのだということがわかった。クスクスから思わず吹き出す爆笑まで、笑いなしに頁は捲れない。写されているのが日常だから、「何気ない」とつい書きたくなるが、実は一枚一枚がとっても偶然で貴重な瞬間のたまものなのである。ウケを狙おういう作為は感じられないから、たぶん常にカメラを持ち歩いていて、日常のいろんな要素がうまくそろって訪れた、すこんと抜けた、とぼけた一瞬を見逃さなかったのだろう。そこが梅佳代さんの目、まさしく梅の目「うめめ」で、そういう目でもって滋味あふれる日常をゆるやかに見てまわれたのは幸福だったろう。ほんとは日常こそ面白いのである。

ごちゃごちゃと人がいて動物がいて、大人がいてこどもがいて、男がいて女がいて、じいさんばあさんがいる。みんな勝手に事情を抱えて生きていて、何やかやと送らなきゃいけない毎日があって、でもはたと気づくとみんなやけに「生きてる感」がある。
窮屈な日常のはずなのに、毎日おんなじと愚痴をたれてたはずなのに、なんか実にどこかでうまく伸びをしている、力が抜けている。
動物だって、腐ったバナナだって、着ぐるみだって、なんだか間抜けて人間くさいし、会議机に座って待機している赤レンジャーも、禿げた頭にご飯粒つけてるおじさんも無様でかっこ悪いのにひどく可愛いし、どの写真も声が出るほど可笑しいのに、見つめているとやがては少しきゅうんとくる。無条件に愛しいよなあ、と温かい気持ちが満ちてくる。こんなふうに自分のまわりの日常をおおらかに見つめられたら、もっと毎日は楽しかったはずなのだ。忘れていたよ。
『うめめ』の写真を見て、「こんなのすぐ撮れるんじゃないの?」と夫はエラソーにのたまった。でもそう、みんなカメラを持って歩けばいい。いや、へたすりゃカメラなんかなくたっていいのである。「うめめ」というサングラスをひっかけて、うかうかとその辺をぶらつこう。日常をもう一度見てみよう。この日常をほんとに平凡でつまらなくさせているのは、他ならぬ自分自身だったってわかるから。

※この『うめめ』のあと、梅佳代さんはかなり評判になって、今は5冊ぐらい写真集を出しているのではないでしょうか。最近のは『うめめ』の続編で『ウメップ』だったかな。
また笑かしてくれてます。
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by zuzumiya | 2010-09-04 16:11 | わたしのお気に入り | Trackback | Comments(0)
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