暮らしのまなざし

著者近影ごっこ

高校時代に写真部だった私がカメラマンになって、夫のポートレイトを撮ってやる遊びを夫婦の間では「著者近影ごっこ」と言っている。
「愛ある写真を撮ってやろうじゃん」
「妻の私が愛情込めて撮ってるから、いいのがとれるんだからね」
などと言って、私に言われるがままに武蔵野の雑木林をそれらしくゆっくりと歩く夫は素直で可愛げのある男である。
家に帰ってから夕飯のあとに、テレビにつないでスライドショーをする。
昔は子供たちも興味を持って見てくれたが、最近はすっと消えてしまう。
食卓には夫婦ふたりが湯のみを持って、にこにこ顔で待っている。
あらかじめ機能のなかについていてくれるのか、いつでもやさしいオルゴールの音楽が流れてくる。写真一枚一枚がふうわりと出てくる。
それらしく樹にもたれ、わざと目線をそらした顔、画面の端で眩しいように目を細める渋い作り顔に思わず夫婦で吹き出し、涙が出るほど笑ってしまう。
その涙を拭き拭き、腹をさすりながら、夫の撮った風景写真で人心地つく。
公園でシートの上に背中合わせに寝転がっている夫婦。
「まいまい池」でパンツ一丁で水遊びをしている子供たち。
花壇に咲き揃ったチューリップ。キャッチボールする父と子。
夫の見つめていた風景を見つめる。
ふいに私の振り向きざまの顔が一枚があらわれて、
「いやだあ、いつ撮ったの、削除して」
などと騒ぐこともある。
それでも最後はいつでも
「もう、これで終わり?」
と声が出る。なんとはなしに名残惜しさでいっぱいになる。
やさしくて切ないオルゴールの演出のせいなのか、さっき見た景色、生きていた時間がすべて過去になって、思い出になっていることを突きつけられるせいなのか、もの寂しさが立ってくる。いつでも、少しだけ空気がしゅんとなる。
「フィルムじゃないんだから、どんどん撮ればいいんだよなあ、俺」
「貧乏性はこれだから、ダメだねえ」
「葬式の写真はこの中から一枚と思ったが、」
「だめだよ、お線香あげるとき吹き出すから」
と言って、もう一度笑い合う。
そうして私は洗い物に立ち、夫はコードの後片付けをして、いつもの二人に戻っていく。
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by zuzumiya | 2010-08-25 17:49 | 日々のいろいろ | Trackback | Comments(0)
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