暮らしのまなざし

おじいさんと犬

おじいさんと犬がいる。
おじいさんは小さくてずんぐりむっくり。
笑うと目のなくなるような優しい顔立ちで、
膝と腰はまるでかがんでいるかのように曲がっている。
犬はおじいさんの風貌に似合わず、洋犬の茶色いミニチュアダックス。
名前は聞いたことがない。
老人に飼われているペットが甘やかされて皆そうなように、
この犬の胴回りもみっちりと温かそうに肥えている。
なんとなく衣服や全体の雰囲気から、おじいさんはひとり身で、
小さな平屋にこの犬とだけ暮らしている、そんな気がする。
毎朝、通勤の道で、おじいさんと犬によく会う。
いつだったか、通りの向こうで目撃した。
おじいさんが犬を散歩させてたら、いきなり窓が開いて、顔を出したおばさんに
「そこでおしっこさせないでよ」と叱られて、
おじいさんは曲がった腰をさらに曲げて、ぺこぺこ謝っては、犬の綱を引き寄せていた。
今朝、コンビニから出てきたら、おじいさんと犬がいて、
おじいさんは犬をガードレールにつないでいるところだった。
犬は別れを察知して、短い足で足踏みしながら、そわそわしている。
おじいさんも犬のせつなく泳ぐ目を見て、心配になったのか、
「ちょっとだけだ、ちょっとだけ、な、よしよし」と言い聞かして、
一瞬だけ両手で顔をつつんだ。そして、おじいさんはコンビニに入っていった。
それからが大変だった。
犬はもの凄い太い声で、ほんとうに「ばうわう、ばうわう」という声で、
おじいさんを追って鳴き出した。
ミニチュアダックスの、あの小さな体のいったいどこに、そんな力が隠れているのか、
朝の街じゅうに響きわたる、それはそれは凄まじい声だった。
大好きで、大事で、
まるで、じぶんがいなければ、おじいさんは守りきれない、
離れたら、おじいさんもじぶんももうおしまいなんだ、と言わんばかりのあの叫び。
犬ながら、ちょっと、びっくりした。
あんなふうに、大事な誰かを大事だと、大好きだから行かないで、ひとりにしないでと、
全身の力で泣き叫ぶ、そういうだだをこねたのは、
いったいいつが最後だったろう。
いつから、わたしは、こんなにものわかりがよくなったんだろう。
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by zuzumiya | 2010-08-25 17:24 | 日々のいろいろ | Trackback | Comments(0)
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