やすこちゃんの花

貧乏草が通り名の花、ハルジオンを見ると、なぜか、やすこちゃんを思い出します。
あのひょろひょろと細く背の高いところや、木綿糸を束ねてざくんと切ったようなぼうぼうの小さな花、つぼみがちょっとうなだれている感じが、なんだかやすこちゃんに似ているような気がします。やすこちゃんは、たしか小学校一年のときのクラスメートでした。家はわりと近くて、赤い寸胴ポストのあった煙草屋さんの通りの平屋で、湿っぽい庭のある小さな家でした。何度か呼ばれて遊んだはずなのですが、よくは思い出せないので、なにか特別、面白いことや楽しいエピソードがあったわけでもないのでしょう。ちょっと遊んでさほど気が合わずに離れていってしまった子だったと思います。ただ、憶えているのは、やすこちゃんはよく授業中にすかしっ屁をしていた、ということです。
授業中にどこからかもやもやと豆を煮たような野暮ったい臭いがして、男の子たちが「くせえ」と口々に騒ぎだします。
「やすこじゃねえの」
「う、くせっ、やっぱり、やすこのヤツだ」
「やすこ、くせえ、屁こいた」
そう言われてみると、なんだかやすこちゃんの方から濃く臭ってくる気がして、わたしも心のなかではやすこちゃんがおならをしたんだと思いました。みんなにじろりと見つめられたやすこちゃんは、ショートカットのざんばらの頭を垂らして、ただ俯いていました。その後も何度か授業中にやすこちゃんのあたりが臭くなる事件があって、いつしかやすこちゃんは何かにつけ男の子から「くせえ」とからかわれ、「屁っぷりやすこ」とあだ名をつけられました。その頃からたぶん遊ぶこともなくなったのでしょう。心のどこかでわたしも男の子たちのように、おならをするやすこちゃんを小馬鹿にして、疎んじていたのだと思います。わたしたちが二年生に上がるとき、やすこちゃんは杉の子学級にいきました。
春から夏にかけて雑草に混じって、町のあらゆるところで貧乏草が風にゆれています。
「持って帰ると貧乏になる」という由来の真偽はわかりませんが、咲いた花には華やかさがなく、野の花のつつましさというより、どことなく侘びし気に見えます。人間に福相、貧相があるように、可哀想ですが、花にも貧相があるようです。
よく晴れた日の朝。電車に乗っていて、線路の端に綿毛になったたんぽぽと一緒に貧乏草が長閑に群生しているのを見かけました。人に嫌われてもそのかわり摘まれずにすんで、仲間と一緒に日なたぼっこができているのです。
何となく心が和んだのは、男の子たちと一緒になって蔑んで、自分より下に見ていたやすこちゃんが、昔のことはすっかり忘れて、今は穏やかに幸福そうに暮らしているような気がして、ほっとしたからかもしれません。
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by zuzumiya | 2010-08-23 12:46 | 日々のいろいろ | Trackback | Comments(0)
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